このJudging FreedomのインタビューでJeffrey Sachsは、ウクライナ戦争とイラン危機を「同じ構造の問題」として捉え、米国の外交・軍事戦略が極めて危険な方向へ進んでいると強く警告している。 彼の議論の中心には、「米国は外交よりもエスカレーションを優先し、その結果として自ら出口のない状況を作り出している」という認識がある。
冒頭では、ロシア国内の女子学生寮への攻撃について議論が行われる。Sachsは、これは単なる軍事行動ではなく「極めて危険な挑発行為」だと位置づける。彼によれば、ロシアのラブロフ外相は米国側に対し、「ロシアは今後、ウクライナ政府機関や作戦中枢への攻撃を強化する」と事実上通告しており、西側関係者はキエフから退避すべきだと明確に警告したという。Sachsは、この発言を単なる脅しではなく、「今後の軍事行動の事前通知」として受け止めている。
さらに彼は、ウクライナ側が意図的に戦争を拡大しようとしていると主張する。彼の見方では、ウクライナは単独で戦争に勝つことはできず、米国と欧州をより深く戦争に引き込むことを目的としている。Sachsはここで、イスラエルが米国を中東戦争へ引き込む構図と、ウクライナがNATOを対ロシア戦争へ引き込む構図は似ているとまで述べている。彼は、「なぜ欧州はウクライナに『何をしているんだ、戦争を止めろ』と言わないのか」と疑問を呈し、むしろ武器供与を続けていることを「狂気に近い」と批判する。
また、英国情報機関MI6やCIAの関与についても踏み込んだ議論が行われる。Sachsは、ウクライナによる長距離攻撃や西側製ミサイル運用には、米英情報機関が実質的に関与している可能性が高いと述べる。特にStorm Shadowなどのミサイルは、西側の支援なしには運用困難だという認識である。そして彼は、トランプ大統領が「戦争を終わらせたい」と語りながら、実際には米情報機関を十分に統制できていない可能性を示唆している。
英国についての批判も非常に厳しい。Sachsは、「英国はいまだに大英帝国の夢を見ている」と述べ、常に戦争拡大を望んでいると批判する。そして、「ロシアと戦争するより、崩壊しかけているNHS(国民保健サービス)を立て直すべきだ」と皮肉を述べている。
ロシアの極超音速兵器「オレシュニク(Oreshnik)」についての議論では、Sachsは、ロシアが「必要ならキエフ中枢を直接破壊する意思」を示していると分析する。彼によれば、これは単なる兵器使用ではなく、「ロシアは本気でエスカレーションに踏み切る」というシグナルである。今後、ウクライナ政府中枢への攻撃が起きても驚かないという見方を示している。
戦争の原因論について、Sachsは一貫して「NATO東方拡大」が最大の問題だったと主張する。彼によれば、1990年のドイツ統一交渉時、西側はソ連に対して「NATOは東へ1インチも拡大しない」と約束していた。しかし、その後この約束は反故にされ、ウクライナをNATOへ組み込もうとしたことが、2014年以降の戦争の根本原因になったという。彼は、当時の米国務長官James Bakerがゴルバチョフに行った発言を引用し、「これは歴史文書で確認可能だ」と述べる。
ドイツに対しても、Sachsは強い歴史的責任を指摘する。彼は、ドイツ政府が1990年の約束、2014年ウクライナ危機、2015年ミンスク合意のいずれにおいても、自らの約束を守らなかったと主張する。そして、現ドイツ首相に対して「今こそプーチンと直接会談し、戦争拡大を止めるべきだ」という公開書簡を書いたと説明している。
後半では、議論の中心がイラン情勢へ移る。Sachsは、米国がイランとの停戦合意を結んだ直後に軍事行動を行ったことを、「米国政府は本質的に不誠実(dishonorable)」だと強く非難する。彼によれば、米国は交渉中であっても爆撃を行い、停戦合意後も封鎖や攻撃を続けるため、相手国から信頼されなくなっている。彼は、これをトランプ流の “Art of the Deal” の問題点として批判し、「約束を守らず、常に相手の弱みを突くやり方は、結局戦争しか生まない」と述べている。
Sachsは、トランプ政権とイスラエルのネタニヤフ政権が、「イラン体制は1日で崩壊する」という幻想を抱いていたと指摘する。彼によれば、米国とイスラエルはイラン国内で政権転覆を狙ったが、24時間以内に失敗した。そして現在、米国には「勝てる軍事オプション」が存在しないという。確かに米軍はイランを破壊する能力を持つが、イラン側にも米軍基地や湾岸地域、さらにはイスラエルへ重大な打撃を与える報復能力があるからである。
そのため、Sachsは「米国は単に中東から帰ればいい」と主張する。彼によれば、もし米軍が撤退すれば、イランはホルムズ海峡を再開し、地域は安定へ向かう可能性が高い。さらに、中国やロシアも戦争継続を望んでいないため、イランに対して沈静化を促すだろうと見る。つまり、彼の立場では、「包括的和平条約」すら不要であり、米国が軍事介入をやめること自体が最大の解決策だということになる。
また、Sachsはネタニヤフ政権について、「戦争拡大を止めるインセンティブがない」と考えている。彼によれば、ネタニヤフはレバノンや周辺地域への攻撃を続け、米国をさらに巻き込もうとしている。そして米国内には「シオニスト・ロビー」が存在し、多くの政治家が米国民よりもロビーの意向に従っているとまで発言している。これは極めて強い表現であり、彼のイスラエル政策批判の強さを示している。
さらに彼は、「アメリカ国民の大多数は、この戦争を望んでいない」と強調する。もし政治家が本当に国民を代表するなら、トランプは「我々は勝利した。だから撤退する」と宣言し、戦争を終わらせるべきだというのが彼の考えである。
最後に、Sachsは中東和平の本質的問題として、「パレスチナ国家の不在」を挙げる。彼によれば、アラブ諸国は2002年以来、「1967年境界線に基づくパレスチナ国家」を条件にイスラエルとの正常化を提案してきた。しかしイスラエル側は「Greater Israel(大イスラエル)」志向を持ち、パレスチナのみならずシリアやレバノンの一部まで含めた拡張的発想を持っていると批判する。そして、トランプ政権はパレスチナ問題を無視したまま「アブラハム合意拡大」を進めようとしているが、それは現実的ではないという認識を示している。
全体として、このインタビューは、Sachsが「米国の軍事依存外交」「NATO拡大」「イスラエルとの過度な一体化」「中東介入」を、すべて同じ構造的問題として捉えていることを示している。彼は、現在の米国外交を「約束を守らず、エスカレーションを繰り返し、その結果として自ら出口を失っている外交」と総括しており、唯一の解決策は「軍事的覇権発想を捨て、直接外交へ戻ること」だと結論づけている。