Jamie Dimon issues BOLD prediction on AI

このインタビュー全体は、「国家安全保障=経済安全保障」というテーマで貫かれています。冒頭で司会のマリアは、トランプ政権が公表した新たな国家安全保障戦略(NSS)に触れ、中国とロシアを主要な脅威と位置づける一方で、NATO同盟国、特に欧州の移民政策や軍事力・経済力の弱体化を厳しく批判していると紹介します。現在の「オープンな移民政策」を続ければ、20年後には欧州の姿は今とは全く別のものになるだろう、というかなり踏み込んだ文言が報告書に記されていることも取り上げ、欧州が「信頼できる同盟国としての経済・軍事基盤を維持できるのか」という問題意識が示されます。その流れの中で、トランプ政権は関税や防衛取引、首脳級の「個人的外交」などを駆使しつつ、国内では減税・規制緩和・製造業とエネルギー産業の再興を進めていると解説され、企業と政府が安全保障面でより深く連携し始めているという文脈で、JPモルガンCEOジェイミー・ダイモンの登場につながっていきます。

ダイモンはまず、JPモルガンが最近発表した「1.5兆ドル規模のセキュリティ&レジリエンス投資イニシアチブ」について説明します。ウクライナ戦争以降、「世界は平和に向かうはずだ」という幻想が完全に崩れ、アメリカ自身の国家安全保障だけでなく、多くの同盟国の安全保障も危機に晒されていることがはっきりした、と彼は言います。軍高官や企業からの声として、必要な弾薬を生産する能力が足りないこと、各種レアアースやリチウムなど戦略物資の供給源が極端に集中していることが浮き彫りになったと指摘します。特に問題視するのは、中国への過度な依存です。ペニシリンを含む医薬品成分の90%を中国に依存しているとされ、F-35戦闘機や原子力潜水艦などの防衛装備に必要な部品も「単一の供給元」に頼っているケースが多いとし、「中国だけの問題ではなく、そもそも単一依存という構造が危険なのだ」と強調します。1.5兆ドルの投資は、レアアース、リチウム、ドローン、衛星、サイバー防衛、さらには教育・スキル育成など27の細分化された分野に振り向けられ、アメリカの産業基盤と供給網を安全保障の観点から総合的に補強することが狙いだと説明します。

次に話題は、中国ビジネスへの向き合い方に移ります。JPモルガンは中国で約3,000社の多国籍企業を顧客として抱えており、中国ビジネスは無視できない規模だと認めつつも、「アメリカの国家安全保障政策に反してまでビジネスを追いかけることはしない」と明言します。例えば人民解放軍(PLA)の軍事力増強に関わる企業のIPO案件などであれば、「絶対に撤退する」と言い切り、軍需関連かどうか、制裁リストに載っているかどうか、といった線引きに従うと説明します。一方で、食料・スニーカーのような民生品や明らかに無害な分野まで一律に排除することはないとも述べ、「アメリカ政府がやめろと言えば従う」というスタンスを示します。ダイモンは「中国を恐れる必要はない」「必要なのはアメリカ自身が強固な安全保障・経済基盤を持つことだ」と繰り返し述べ、対中デカップリングというより、リスク管理と自国の強靭化に焦点を当てるべきだという考えをにじませます。

マクロ経済の見通しについてダイモンは、短期的には米国経済は概ね堅調であると評価します。消費者はまだ「順調に支出を続けており」、企業利益は出ていて株価も高水準にあるため、この状況はしばらく続く可能性があると見ています。ただし、雇用指標はわずかに弱含み、賃金上昇も減速気味で、インフレも完全には鎮静化していないなど、小さなリスク要因は存在すると指摘します。さらに、史上最長となった政府機関のシャットダウンが、IPO市場に一時的なブレーキをかけたことにも触れ、「シャットダウンは愚かであり、アメリカにダメージを与えるだけだ」と強く批判します。SECの業務停止により、新規上場案件は約30日間ほぼ止まったものの、現在はIPO、社債発行、M&Aの案件パイプラインは「巨大」だと説明します。ただし、市況が悪化すればこれらのパイプラインはアコーディオンのように一気に閉じる可能性があると警告し、常にマーケット環境次第であることを強調します。

そこから議論は、人工知能(AI)が雇用や社会構造に与える影響へと移ります。ダイモンは、AIが雇用を一気に破壊するという悲観論には与しません。むしろ、トラクターや肥料、ワクチン、電気、インターネットといった歴史的テクノロジーと同様に、「人類にとって大きな恩恵をもたらす」可能性の方がはるかに大きいと主張し、AIは「多くの癌を治すことさえ可能にするかもしれない」とまで言及します。その一方で、航空機・自動車・医薬品などと同じように「強力なテクノロジーは必ず悪用される余地がある」のだから、政府による適切なガードレール(規制・ルール)が不可欠だとも述べます。彼は、AIが特定の業務や職種を淘汰すること自体は避けられないが、それによって新たな職種や産業が生まれるという歴史的パターンは変わらないと考えており、「人々が批判的思考能力を身につけ、コミュニケーション能力や文章力、専門スキルを磨けば、仕事はいくらでもある」と若年層や労働者へのアドバイスを送ります。

しかし同時に、AIの進展スピードが「社会が吸収できるスピード」を上回る可能性については、かなり真剣に懸念しています。農業から工業への転換、電気の普及、インターネット革命など過去の大転換期でも、人々が新しい世界に慣れるまで時間がかかったが、今回は変化のスピードも対象領域の広さもそれ以上であり、適応が難しくなるかもしれないと指摘します。そうなった場合、政府と企業、社会全体が協力し、徐々に導入を進める「ソフトランディング」の設計が必要だと言います。例えば、工場閉鎖で打撃を受けた町への貿易調整支援(再訓練、転居支援、収入補填、早期退職など)は、本来もっと手厚く行うべきだったと過去の教訓を挙げ、AI時代にも同様の施策が必要になると主張します。また、巨大なデータセンター建設、送電網強化、サーバー・冷却設備・消防設備などのインフラ整備には膨大な建設・技能労働が必要となり、「短期的にはむしろ雇用は増える可能性が高い」という視点も提示します。

AI投資のリターン(ROI)については、司会者がNVIDIAのジェンセン・フアンの発言を引用しつつ、多額の投資がいつ・どのように回収されるのかを問いかけます。ダイモンは、JPモルガンのリサーチによれば、AI関連投資はデータセンター、半導体、光ファイバーなどを含めて総額「約5兆ドル」に達すると説明します(ここには発電所や送電線などの電力インフラは完全には含まれていない可能性も示唆)。資金は公共、民間、プライベートクレジット、証券化商品など多様な形で供給され、「インターネット時代にGoogle、Amazon、Facebookなどの巨大勝者が生まれたように、AI時代にも新たな巨大企業や技術プラットフォームが生まれる」と予測します。ただし、iPhoneのように「後から登場して市場構造を決定づけるイノベーション」もあり得るため、投資回収のタイミングはばらつきが大きいと見ています。それでも、長期的にはAI投資は必ず実を結ぶと自信を見せます。

インタビューの終盤では、話題は一転して、特別検察官ジャック・スミスによる“Arctic Frost”捜査と、トランプ関連企業・支持者の銀行口座情報の扱いに移ります。元下院情報委員長デヴィン・ヌニェスは、JPモルガンが自らの銀行記録を特別検察官に提出したと主張し、それが「政治的なデバンク」だと強く批判していました。これに対しダイモンは、「みんな大人になれ。事実に反する物語を作るのはやめるべきだ」とやや苛立ちを見せつつ反論します。個々の口座や取引については守秘義務上コメントできないとしつつも、「宗教や政治的立場を理由にデバンクすることはない」「共和党員も民主党員も宗教者も、そうした理由ではデバンクしない」と明言します。一方で、マネロンや制裁違反など「疑わしい活動」については、法律上、政府に報告する義務があり、その結果として口座閉鎖や取引制限が行われることはあると説明します。

ダイモンはさらに、現行の規制は顧客にとって非常に不親切であり、自身は15年以上にわたって「デバンクや過剰な報告義務のルールを変えるべきだ」と政府に訴えてきたと明かします。銀行は政府からの要請に対して「任意で情報を差し出している」のではなく、裁判所による正式な召喚状(subpoena)が出れば、法的義務として応じざるを得ないのだと強調し、「これは銀行ではなく、司法と政府のルールの問題だ」と位置づけます。彼は、複数の政権(民主・共和問わず)が長年にわたり銀行や企業を監視・情報収集の道具として利用してきたと指摘し、この問題を「特定の政権や人物への攻撃」に矮小化するのではなく、制度として抜本的に見直すべきだと主張します。最終的に彼のメッセージは、「銀行を悪者にするのではなく、何を・どこまで報告させるのかというルールを賢く作り直すべきだ」という構造的改革への要請に収斂していきます。

全体として、このインタビューのジェイミー・ダイモンの発言は、①国家安全保障と経済安全保障を一体のものとして捉え、供給網や産業基盤の自立性を高めるべきだという主張、②AIは人類にとってワクチンや電気に匹敵する大変革であり、適切な規制と社会的セーフティネットを前提にすれば、むしろ雇用と豊かさを生み出すという「大胆な楽観」、③金融機関に対する政治的・司法的圧力の問題を、単なる政治対立ではなく制度設計の問題として捉え直そうという姿勢、の三本柱で構成されています。彼のメッセージは極めてビジネスライクでありながら、「アメリカが自らの強さを取り戻せるかどうかは、レアアースからAI、ルールメイキングに至るまで、自前の基盤をどこまで整えられるかにかかっている」という一貫した危機感と展望がにじんでいます。

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