Daniel DavisのDeep DiveにGlenn Diesen教授が登場。
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本動画では、トランプ前大統領による「イラン戦争はほぼ終結に近い」という発言を起点に、その現実性と戦略的意味が詳細に検証されている。トランプは、イランの軍事能力やインフラを壊滅させたことで勝利に近づいていると主張し、交渉も成立寸前であるとの認識を示している。しかし、出演者であるグレン・ディーセンおよびダニエル・デイビスは、この見方を強く疑問視する。彼らは、戦場における破壊の拡大が必ずしも政治的解決や和平に結びつくものではないと指摘し、「戦争終結」という言説は市場や世論を安定させるための政治的演出の側面が強い可能性を論じている。
議論の中核は、「米国の要求とイランの安全保障上の現実との根本的な矛盾」にある。米国側が求める核開発の全面放棄、ミサイル・ドローン戦力の縮小、さらには地域同盟関係の解体は、イランにとって国家存続そのものを危うくする条件であり、受け入れは事実上不可能であると分析される。したがって、現行の条件設定のままでは外交的合意は成立せず、仮にトランプが「勝利宣言」を行うとすれば、それは軍事的破壊を最大化した後に一方的に撤退するという形になる可能性があると指摘されている。
また、イラン側の戦略として強調されているのが「エスカレーションの対称性(escalation symmetry)」である。すなわち、米国やイスラエルが軍事的圧力を強めれば、それに応じて同等レベルで反撃することで抑止力を維持するという考え方である。実際、イランは事前に警告していた通り、米軍基地への攻撃やホルムズ海峡の封鎖といった行動を実行しており、その行動は一貫して予測可能であると評価されている。この点は、従来の「米国がエスカレーションを支配する」という構造がすでに崩れている可能性を示唆している。
さらに重要な論点として、イラン社会の耐久力と内部結束が挙げられる。外部からの攻撃は通常、国内の分断を深めるどころか、むしろ体制支持の結束を強化する傾向があるとされる。特にイランの場合、殉教文化や過去のイラン・イラク戦争の経験があり、長期的な犠牲を受け入れる社会的基盤が存在する。出演者は、現在の攻撃が結果的に反体制派を含む国内勢力を統合し、体制をより強固にしている可能性を指摘している。
軍事的観点からも、戦争の勝利可能性には限界があるとの認識が広がっている。イスラエルの元情報関係者の発言として、「軍事力(kinetic operations)だけでは体制転換も核開発阻止も達成できない」という見解が紹介されており、周期的に攻撃を繰り返す「草刈り戦略」は無限の消耗戦に陥るだけだとされる。このため、現実的な選択肢は、完全な勝利ではなく、何らかの政治的妥協に基づく共存であると論じられている。
一方で、戦争の経済的影響はすでに深刻な段階に入っている。ホルムズ海峡の封鎖や海上封鎖措置により、原油や肥料の供給が滞り、燃料価格や農業コストが急騰している。特に農業分野では、肥料不足が作付けに影響し、将来的な食料不足と価格高騰が「すでに織り込まれている」との分析が示されている。この影響は米国だけでなく、アジア、アフリカ、オーストラリアなど世界規模に及んでおり、戦争の長期化がグローバルな経済危機を引き起こすリスクが強調されている。
中国との関係については、トランプの「中国は満足している」「協調関係にある」との発言に対し、強い懐疑が示されている。実際には、イラン産原油の大部分を輸入している中国にとって、米国の封鎖は直接的な経済攻撃であり、対中戦略の一環と解釈されている。さらに、半導体規制など他の経済政策と合わせて、米国が中国の台頭を抑え込もうとしている構図が指摘される。つまり、この戦争は単なるイラン問題ではなく、米中戦略競争の延長線上に位置づけられるという認識である。
最後に、より大きな構造的視点として、「単極体制から多極体制への移行」が強調される。米国は依然として単極的な覇権戦略を維持しているが、現実には中国・ロシア・イランなど複数の極が存在する世界に移行しており、そのギャップが戦略的失敗を生んでいると分析される。結果として、制裁や封鎖といった圧力は逆に中国への依存を高め、イランやロシアを中国側に引き寄せる効果を持つ。このように、本来の目的である競争相手の弱体化とは逆に、長期的には中国の相対的地位を強化する結果をもたらしている可能性がある。
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■総括
本動画の主張を整理すると、①戦争は軍事的に決着しない構造にある、②イランは合理的抑止戦略に基づき持久可能、③経済的副作用が世界的に拡大している、④この戦争は対中戦略の一部である、⑤しかし結果的には多極化を加速し中国を利する可能性が高い、という点に集約される。全体として、現行の戦略は短期的な軍事成果と引き換えに、長期的な地政学的損失を拡大させているという問題意識が一貫して示されている。