このインタビューでは、まず現在の停戦交渉の状況と、その「主導権」を本来握っているはずのトランプ政権の姿勢が中心テーマとして語られます。司会者は、2025年11月時点で「トランプは本当にウクライナ戦争を終わらせる決断をするのか」「欧州とキエフに『もう合意しろ』と言うのか」が最大の焦点だと位置づけます。一方で、ゼレンスキーが和平案に前向きだという報道、米国の28項目案・EU案・キエフの19項目案といった複数のプランが出回っているものの、いずれもロシアが受け入れるとは考えにくい中身だと整理します。ジェフリー・サックスはこれに対し、「そもそもこの戦争は完全に回避可能だった」とし、戦争の根本原因は米国がロシアの繰り返しの強い反対を無視して、ウクライナのNATO加盟を推し進めたことにあると明言します。
サックスは、戦争の出発点を2022年ではなく2014年の「米国が支援したウクライナ政権の転覆」に置きます。そこから8年にわたり、ドンバスを中心に低強度の戦争が続き、その構造的な緊張が2022年に大規模エスカレーションとして噴出したという位置づけです。その間、ロシアは米露間の包括的な安全保障協定案(NATO非拡大、ウクライナ中立化など)を提示していましたが、バイデン政権はこれを交渉せずに拒否し、結果として全面戦争を招いたと批判します。しかも、2022年春にはイスタンブールでロシアとウクライナが「ウクライナの中立化」を軸にした和平合意案をほぼまとめており、ゼレンスキー自身も当初は中立を受け入れる姿勢を示していたにもかかわらず、米国と英国が介入し、「戦い続けろ、我々が支援する」とキエフを説得して合意を潰したと指摘します。その結果、本来なら数週間で終わっていたはずの戦争が延命され、その間に「おそらく100万人単位」の犠牲者が出た可能性があると、米英の責任を極めて重く見ています。
現在テーブルにあるとされる和平案についてサックスは、「2022年4月に比べてウクライナの条件は悪化している」と分析します。ロシアが戦場で領土を実効支配し、東部ドンバスやヘルソン、ザポロージェなどを自国領とみなしている以上、現実的な合意の骨格は「ウクライナのNATO非加盟の明文化」「ロシアの支配地域を事実上認める」「双方が追加侵攻やミサイル攻撃を控える相互安全保障措置」といったものになると見ています。この枠組みはサックスからすれば「きわめて合理的」ですが、欧州の首脳はなお「ウクライナのNATO加盟の権利」を唱え、戦争継続を正当化しようとしていると辛辣に批判します。一方で、ウクライナ国民は疲弊し切っており、世論調査でも「交渉による停戦」を望む声が圧倒的であるにもかかわらず、ゼレンスキー政権と腐敗したエリート層は、資金と武器が続く限り戦争を続けたがっていると描写します。ここでサックスは、「ウクライナがこう言う」「欧州がこう言う」といった表現は、実際にはごく少数のエリートによる利害計算を国民意思であるかのように偽装したレトリックに過ぎないと強調します。
次にサックスは、米欧双方の国内政治構造と、トランプ自身の性格が戦争長期化にどう影響しているかを論じます。欧州ではショルツ、マクロン、スターマーといったリーダーたちがいずれも歴史的な低支持率であり、フォンデアライエンも含めて「不人気な戦争屋」として描かれます。彼らにとっては、「ウクライナ人が死に、米国が武器と資金を出し、自分たちは政治的・財政的コストを他人に押し付ける」構図が都合がよく、その結果として戦争継続を煽っているとサックスは見る。一方米国では、軍産複合体だけでなく「軍産・デジタル複合体」とも言うべき巨大なロビー・情報空間が、大統領と議会を戦争継続の方向に押し流しており、その意味でベトナム戦争と同じ「惰性的な敗戦戦争」になっていると警告します。
トランプ個人についてサックスは、「強い男」を演じる一方で、実際には優柔不断で知識も安定性も欠く弱いリーダーだと手厳しく評します。彼の周囲には、戦争終結を望むアドバイザーと、ケロッグ将軍やリンジー・グラム、リチャード・ブルーメンタルのような典型的なネオコン的タカ派の両方がいて、トランプは彼らの言葉を聞くたびに立場をころころ変えていると描写します。ある時は「NATO拡大は誤りだ」と理解し、別のタイミングでは「ロシアにもっと圧力をかけるべきだ」と流され、プーチンと話せば「和平だ」と言い、欧州から「ウクライナは勝っている」と言われればそれを信じる、といった具合です。サックスは、トランプが当初は「これはバイデンの戦争だ」と言っていたものの、一年近くも明確な終戦決断を先送りしてきた結果、「今やこれはトランプの戦争であり、終わらせる責任も彼にある」と指摘します。そのうえで、「もしトランプが明確で一貫した決断を下し、『米国はこの戦争を支援しない』と言えば、欧州もウクライナも戦えなくなり、戦争は終わる」と繰り返します。
インタビューの中盤では、ミンスク合意と「誰が合意を破ったのか」という信頼の問題が詳しく取り上げられます。主流メディアは常に「ロシアは信用できない」と言い立てますが、サックスは、実際に約束を反故にしてきたのは西側だと反論します。ミンスク合意は、ドンバスのロシア系住民に自治を認めることで戦闘を止める枠組みとして、国連安保理の後ろ盾も得た「きわめて合理的な合意」だったと説明し、そのモデルとしてイタリア北部の南チロル(ドイツ語圏自治州)を挙げます。当時のメルケルは南チロルを参考にミンスク合意を推進していたとされますが、結果的にはウクライナ側と米国が実行しようとせず、「合意はウクライナ軍再建のための時間稼ぎに過ぎなかった」と後にメルケル自身が語ったことが、ロシアの深い不信を招いたと指摘します。したがって、今後の和平合意においても、「本当に合意を守る気があるのか、また裏切るのではないか」という懸念は、西側にこそ向けられるべきだというのがサックスの論点です。
それでもサックスは、現在の和平案に「NATOはウクライナに拡大しない」「ウクライナは恒久的中立国となる」といった明文化された条項が盛り込まれれば、これはごまかしの余地が少ない非常に明確な枠組みになりうると主張します。もし将来の米大統領がこれをひっくり返して「やはりウクライナをNATOに入れるべきだ」と言い出せば、その瞬間に戦争が再開するのは明白であり、「隠れた裏切り」では済まない露骨な挑発になるため、政治的コストも高いと見ています。ここでサックスは、そもそも米国はウクライナで戦争を起こすつもりではなく、「ロシアは黙ってNATO拡大を受け入れるだろう」と誤算していたと振り返り、その思想的源流としてズビグネフ・ブレジンスキーの『グランド・チェスボード』を挙げます。「世界地図の全マスに米国の駒を置く」というような地政学ゲーム感覚が米外交を支配してきたが、実際にはロシアは屈服せず、中国との連携を強化し、多極化を推し進めているというわけです。
終盤では、ロシアの現在の地政学的位置と、多極世界の形成が詳しく論じられます。サックスは、「ロシアがバルト三国やパリ、ベルリンまで侵攻する」といったイメージは完全な妄想だと一蹴し、ロシアは世界最大級の領土を持っており、領土拡大のために戦争をしているわけではないと強調します。ロシアにとって重要なのは「米国に一方的に支配されないこと」であり、その文脈でウクライナ戦争は、2014年の政権転覆とNATO東方拡大が生んだ安全保障上の「真に深刻な脅威」への対応と見なされていると説明します。そのうえで、ブレジンスキーが想定していなかった「ロシアと中国の戦略的な相互補完関係」が現実化し、上海協力機構(SCO)などを通じて、ロシア・中国・中央アジア・南アジア・東南アジアにまたがる「広大な平和的協力圏」が形成されつつあると指摘します。BRICS諸国も含め、これらの国々は「米国のボス支配を拒否し、多極秩序を現実のものにする」方向で、金融・外交・経済・軍事協力を着々と進めているというのがサックスの見立てです。
最後にサックスは、トランプの「ビジネスマンとしての本能」により、ロシアと正常な経済関係を持つことには比較的前向きである点を限定的に評価しつつも、彼の自己陶酔や矛盾、素人性が一貫した和平戦略の構築を妨げていると指摘します。それでも、もしトランプが本気で「ロシアとの経済関係正常化」「ウクライナ戦争終結」に舵を切れば、それは歓迎すべき方向だと述べ、「今こそロシアから差し出されているオリーブの枝を受け取るべきだ」と強調します。インタビュー全体を通じてのメッセージは明確で、「ウクライナ戦争はNATO拡大と米国の誤った対露戦略による失敗であり、ロシア弱体化どころか多極秩序を強化する結果になった。これ以上の米国の関与は無意味であり、米国はウクライナ戦争への支援をやめ、和平を主導すべきだ」というものです。
