トランプ大統領:USスチール「買収でなく投資」の意味を考えてみる

バイデン政権の下では、米国の安全保障上の問題で日本製鉄のUSスチール買収は承認されなかった時、米国の同盟国である日本の主要企業による米国企業の買収が何故、安全保障上の問題になるのか、正直、理解をするのは難しかった。

おまけに、USスチールそのものが、日本製鉄の買収を希望しており、単独でのサバイバルは困難と白旗を挙げていただけに、日本製鉄の技術や資金に依拠しない、USスチールの成長戦略に大きな疑問を感じていた人はUSスチールの投資家も含めて多かったと思う。

 
 
 

2月7日のNPRの

“Trump says Japan’s Nippon Steel will now invest in U.S. Steel ‐ not take it over”

の記事では、金曜日にホワイトハウスで行われた石破茂首相との記者会見で、

「トランプ大統領は日米関係に関する最新情報を発表し、新日鉄は米国の名門メーカーを買収するのではなく、米国の鉄鋼に“多額の”投資を行うと発表した。」

と報じた。

しかし、「買収ではなく、投資である」と言う意味はどういう内容を意味するのだろうか?

これまでの報道を総合すると、当初買収案はこんな感じになっていたようだ。

  • 買収方法: 全額現金での買収で、S. Steelの株を1株あたり55ドルで取得。

  • 資金調達: 買収資金は主に日本の主要取引銀行からの借入金で調達。

  • 融資条件: 銀行から、融資の約束を得ているとされている。

  • 買収後の運営: USスチールの社名と本社所在地は維持。

  • 設備投資: 買収後にUSスチールに対して27億ドル以上の設備投資を行う計画。

買収資金は、149億ドル(約2.2兆円)であるものの、この資金はUSスチールの発行済み普通株式を購入するだけと考えると、単に既存投資家から日本製鉄にオーナーが変わるだけで、USスチールの新規の資金調達には関係なく、むしろ買収後の設備投資としての27億ドル(約4,100億円)が“真水”の投資資金となる。

買収資金と新規の設備投資の金額には大きな差があるが、

「買収ではなく、投資である」

の真の意味は何であろうか?

単純にUSスチールが日本製鉄に27億ドル相当の普通株式の第三者増資をして、USスチールには設備投資の為の新規資金は調達し、この資金で今後の成長に必要な設備投資をしても、日本製鉄の投資リターンは、配当や将来の株価上昇から得られるキャピタル・ゲインであり、仮にUSスチールが別途、こうした設備投資に必要な技術等のライセンス・フィー的なものを日本製鉄に支払ったとしても、USスチールを完全買収して、米国での事業を行うイメージとは随分と違うと言えよう。

まして、仮に前述の27億ドル相当の資金を融資やあるいは優先株のようなもので、USスチールが日本製鉄から直接資金調達しても、日本製鉄側に期待するようなリターンは計上出来ないだろう。

では、

「買収でなくて投資である」

意味を改めて考えると、私が想像するアイデアは、昨年6月にIntelが、同社のアイルランド新工場「Fab 34」に関連する合弁事業体の持ち分を投資会社Apollo Global Management(以下、「Apollo」社と略す)に110億米ドルで売却することで合意したと発表したディールに似たような形を取るのではないかと思う。

このIntel-Appolloの案件では、Apolloは合弁事業の持ち分49%を保有し、残りの51%はIntelが継続して保有することになっており、新規事業をIntel本体から切り離し、事業はIntelが行い、資金はApolloの力も借りつつ、当該事業の運営権はIntelが持つような形になっている。

日本製鉄はApolloと違って事業会社なので、切り出した合弁事業は事実上両者で協議しながら運営する形になるが、形式上はUSスチールに経営権があるような見せ方は、JV企業の持株比率や日本製鉄のJV企業への出資を日本の会計で言う匿名組合のようなサイレント・パートナーシップにするなど、色々工夫して、あくまで

「買収でなく、投資である」

見せ方は出来るのだろうと思う。

また、こうした案件に銀行借入を加えれば、出資したエクイティのレバレッジ後のリターンを上げることも勿論可能だ。

少し穿った見方をすれば、トランプ大統領は、バイデン前政権が当該買収案件を米国の安全保障上の理由で承認しなかった時に、内心、

「俺なら上手くやれる」

とほくそ笑んでいたのではないかと思う。

トランプ大統領は、不動産取引だけでなくTruth Socialの運営体である、Trump Media & Technology GroupのNasdaq上場でも分かるように、資本市場の取引にも大変長けており、Dealの神様にとっては美味しい案件だったのかもしれない。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

上部へスクロール