ハンガリー・オルバン首相のウクライナ及びロシアサプライズ訪問

ハンガリーはこの7月から欧州連合(EU)理事会の任期6か月の議長国を務めている。

このEU理事会議長は、議長国としての権限は限られているが、EUの議題に影響を与え、その任期中に取り上げる議題と立法上の優先事項を決定することになる。

また、ほとんどの理事会で議長を務め、議論が適切に行われ、理事会の規則や手続きが遵守されていることを確認することが期待されている。

更に対外関係に於いては、 特に外務・安全保障政策上級代表および欧州評議会議長と連携して、対外関係においてEUを代表する役割を果たすことになっている。

 
 
 

欧州連合(EU)理事会の議長国を務めるに際して、法治問題やロシアとの関係に対するオルバン政権の姿勢から、オルバン首相のリーダーシップに対する懸念が広がっていた。

一方で、6月30日のabc NEWSの“Hungary’s Orbán to take over EU presidency as many issues hang in the balance”では、

「ハンガリーの議長国就任の時期(夏休みとEU機関の移行期間)により、ハンガリーがEUの優先事項に大きな影響を与える機会は限られていると専門家は見ている。」

と言う見方も伝えていた。

そのような状況下で、オルバン首相は7月2日(火曜日)、キエフに滞在し、2年以上前にロシアが本格的な侵攻を開始して以来、初めて隣国ウクライナを訪問した。

訪問中、EUで最も親ロシア的な指導者の一人であるオルバン首相は、ウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領と会談した。

7月2日のEuronewsの“Hungary’s Orbán makes first trip to Kyiv since Russia’s full-scale invasion”では、「オルバン首相の広報担当ベルタラン・ハヴァシ氏はハンガリー通信社MTIに対し、会談の主な議題はウクライナがモスクワ軍と戦う中での平和構築の見通しに関して設定されたと語り、両首脳はハンガリーとウクライナの二国間関係に関する現在の問題についても話し合う予定だと付け加えた。」と報道された。

7月2日のFrance 24の“Orban calls for Ukraine ceasefire to pave the way to peace talks”では、

「オルバン首相はゼレンスキー大統領に対し、ロシアとの戦争終結を早めるために停戦を検討するよう求めた。」

と述べた。

このウクライナ訪問後に、オルバン首相は、ロシアを電撃訪問した。

この訪問については、7月5日のVoice of Americaの“Hungary’s Orban arrives in Moscow for talks with Putin, a rare visit from a European leader”では、

「オルバン首相はロシアのプーチン大統領との会談のためモスクワに到着したとオルバン首相の広報部長が金曜日に発表した。

ロシアが2年以上前にウクライナに侵攻して以来、欧州首脳がロシアを訪問するのは異例のことだ。

オルバン首相の訪問は、同様の予告なしのウクライナ訪問からわずか数日後のことであり、同首相はゼレンスキー大統領と会談し、ウクライナがロシアとの即時停戦合意を検討するよう提案した。」

と報道した。

7月5日のRTの“Orban’s surprise visit to Moscow sparks fury in Brussels: Key takeaways from Hungarian PM’s ‘peace mission’”では、今回の訪問について、以下のように報道している。

  • オルバン首相は、今回の歴訪が対話回復への第一歩になったと述べた。 欧米によるウクライナへの軍事援助を批判しているハンガリー首相は、今回の訪問にはEUからの委任状がないことを認識しているが、平和は「ブリュッセルの快適な肘掛け椅子から」達成できるものではないと述べた。 オルバン首相はプーチン大統領と会談する前にX(旧Twitter)にこう書き込んだ。

  • ハンガリー首相は、ロシアがさまざまな和平構想をどのように受け止めているかをプーチン大統領から直接聞きたかったと語り、対立する両者の間に大きな溝があることを確認したとはいえ、これは重要な一歩だと述べた。

  • プーチン大統領とオルバン首相は、紛争の「最短の出口」について話し合った。モスクワとキエフの立場は依然として非常に「かけ離れている」とオルバン首相は認めた。「戦争の解決に近づくためには、多くのステップを踏まなければならない。それでも、私たちはすでに最も重要な一歩を踏み出した。」と同首相は述べた。

  • ロシア大統領は、交渉を通じて敵対関係を解決する用意があることを改めて表明した。 しかし、ウクライナの指導者たちは、「最後まで」戦争を続けるという考えを捨てることができないようだ、とプーチン大統領は指摘した。 モスクワは、一時的な停戦や「凍結された紛争」を選ぶのではなく、永続的で持続可能な和平を目指している、とロシア大統領は警告した。

オルバン首相は、自分はEUの代表として訪問したのではないと主張したにもかかわらず、今回のモスクワ訪問はEU首脳や政府関係者の強い反発を招いた。

7月5日のCNNの“Hungary’s PM Orban meets Russia’s Putin in a Moscow visit condemned by Ukraine and EU leaders”では、今回の訪問を以下のように伝えている。

  • 欧州委員会のウルスラ・フォン・デア・ライエン委員長は、オルバンのモスクワ訪問を批判し、「宥和策ではプーチンを止めることはできない」と述べ、「団結と決意だけが、ウクライナの包括的で公正かつ永続的な平和への道を開くだろう」と付け加えた。

  • キエフもオルバン首相の訪問をいち早く批判した。「今回の訪問は、ハンガリー側がウクライナとの承認も調整もなしに決定したものだ。」「同省は、ウクライナの和平方式(ゼレンスキー大統領がまとめた計画)は、「公正な平和を回復する唯一の現実的な方法である」と述べた。

ウクライナの戦況が相当程度厳しいものになっているにも拘わらず、ゼレンスキー大統領は、ウクライナの主張する和平方式に拘り、最後まで戦争を放棄するつもりがないように思える。

しかしながら、支援を続ける欧米にも、大きな変化が出て来ていることは間違いない。

1つは先の欧州議会選挙では保守勢力が台頭し、フランスの総選挙でも保守勢力が党勢を拡大していること。

また、米国に於いては、11月の大統領選挙に向けてヒートアップして来たが、トランプ前大統領の政権復帰の可能性も高まって来ており、仮にトランプ大統領が大統領選挙に勝てば、ウクライナへの支援継続についても、大きく方針が変わり、結果として、西側からの経済・軍事支援に依存するウクライナは、ロシアとの戦争を継続できなくなるのではないか。

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