欧州の商業不動産投融資に係るチャレンジが続く

ESGあるいは責任投資(Responsible Investment)は、機関投資家による投資や商業銀行による融資の世界に大きな影響を与えて来ているのは言うまでもありませんが、特にCO2の排出による気候変動が大きなテーマになっており、アセット・オーナー、資産運用会社、レンダーのそれぞれの立場で、CO2の削減に積極的に取り組むような仕組み作りが進んで来ています。

さて、本日のタイトルにもある不動産に関しては、そもそも、不動産業界は世界における炭素の主要な排出源となっており、例えば、2019年日本全体のCO2の排出量の3割を不動産業界が占めており、不動産業界がどれだけ二酸化炭素の排出量を抑えることができるのかと言うことが、注目を集めて来ました。

不動産業界の脱炭素化の取り組みは建築物自体の省エネ能力を高めることによって、エネルギー消費量を削減して、再生可能エネルギーを導入することでバランスを取ること目的にしています。

しかしながら、不動産業界だけの自助努力ではCO2の排出量削減にドライブがかからないことから、アセット・オーナーに加えて、商業用不動産のエクイティ投資家、不動産投資顧問会社、商業用不動産(CRE)に融資するレンダーにも、投融資の対象不動産についてCO2の排出量目標を課して、不動産業界の脱炭素化を推進する動きが顕著になって来ています。

6月3日のBloomberg Green の“Global Banks Start Targeting a New Breed of Real Estate Risk”と言う記事の中で、欧州のCRE融資に関するグローバル銀行が、Energy Performance of Building Directive((欧州連合の建物のエネルギー性能指令(EPBD))の影響を受けて、商業用不動産のCO2排出削減に対して意欲的な目標を設定している状況を以下のような要旨で伝えています。

  • BNPパリバSAは、2030年までにCREポートフォリオのCO2の排出量を最大41%削減する新たな目標を設定しました。この動きは、バンコ・サンタンデール、バークレイズ、INGグループ、ナットウェスト・グループなどの主要銀行が、EPBDに基づく新しい環境規制に対応するために、建物の炭素排出量と関連するコストを見直す傾向の一環です。

  • EPBDは、EUにおけるエネルギー消費と温室効果ガス排出量の大部分を占める建物部門の脱炭素化を目指しています。この指令により、銀行はCRE融資の実践を再評価することを余儀なくされており、エネルギー性能基準を満たさない物件は、取り残された資産となるリスクがあります。EUの建物の約85%が2000年以前に建設され、その75%がエネルギー性能が低いとされています。これにより、改修が必要ですが、コストがかかります。

  • 銀行は、新しい環境基準に準拠しないCRE担保の価値が下がる可能性があるため、バランス・シート上で重大なリスクに直面しています。改修コストは上昇しており、多くの銀行はCREポートフォリオのエネルギー性能データが不足しているため、リスク管理が複雑化しています。一部の銀行は、これらのリスクを外部投資家に移転するために、証券化の手法を用いることを検討しています。

  • BNPパリバSAは、CREの債務融資決定において気候影響を重要な基準とし、グリーン資産の融資を増やす方法を模索していると述べています。他の銀行、例えばバークレイズは、CREポートフォリオの排出強度を2030年までに51%削減する目標を設定し、顧客と協力してこれらのリスクに対処しています。

  • EUの目標は、2030年までに建物部門の温室効果ガス排出量を60%削減することであり、銀行はこの移行を資金提供する上で重要な役割を果たします。しかし、これらの目標を達成できない銀行は、規制当局からの叱責や気候訴訟のリスクに直面します。BNPパリバは、住宅用不動産ローンも検討していますが、各国の規制が異なるため、明確な目標は設定していません。

  • 全体として、銀行業界はEPBDによってもたらされる課題と、低炭素経済への移行を支援するための体系的な変化の必要性に取り組んでいます。

欧州のCREポートフォリオは、a)高金利とb) Covid-19の感染が広まった時期から在宅勤務の普及が進んだ結果、CREのテナント入居率が低下し、賃料が下がる中で、コロナ感染が収束してからも、賃貸市場がコロナ感染拡大の前の状態になかなか戻らないこともあって、レンダーの立場からはCREポートフォリオの資産価値が減少し、担保価値が下がっている状態が続いており、既存のCRE融資の借り換えもスムーズに進まない状況にあります。

このような難しい状況下にあって、欧州のグローバル銀行はEPRDに基づくCREポートフォリオのCO2排出量のアグレッシブな削減目標にも迫られていると言うことで、チャレンジは続くと言うのが小職の見方です。

建物自体の省エネ対策も、築年が古いものは、設備投資を行ってもCO2の排出量の削減効果に限界もあることから、結果として再開発の方向に舵を切ることになろうかとは思います。

欧州の方は、環境に優しい、サステナブルな不動産に対しては、そうでない不動産に比べて高い家賃を支払う傾向があることも分かっていますが、一方で、インフレーションの影響で、建築コストも従前と比べると上昇しており、欧州の景気が弱い中で、建築コストの高い“Net Zero Energy Building”仕様の建物を開発するのが投資採算に乗るのか否か、慎重な見極めが必要となるでしょう。

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