IISS アジア安全保障サミットでの気になるオースティン米国国防長官の発言

IISS アジア安全保障サミット(IISS Shangri-La Dialogue)は、イギリスの独立系シンクタンクである国際戦略研究所が主催する国家間安全保障会合であり、アジア随一の防衛サミットである。

閣僚がアジア地域で最も差し迫った安全保障上の課題について議論し、重要な二国間協議を行い、新たなアプローチを共に考えるユニークな会議である。

2024年のイベントは、5月31日から6月2日にかけてシンガポールで開催された。

6月3日のDefense OneのThe D Briefは、IISS アジア安全保障サミットに於ける議論の中で、米中の国防閣僚の主要なやり取りを報道しており、以下、その要旨をお伝えする。

  • ロイド・オースティン米国国防長官と中国の董軍国防部長は、シンガポールで開催されたシャングリラ安全保障サミットで、2年近くにわたって軍事的な交流が途絶えていた両国と初めて直接会談した。

  • 金曜日の会談は、2022年8月にナンシー・ペロシ前米国下院議長が台湾を訪問した後、中断していた軍と軍の直接協議の再開を意味した。

  • オースティン国防長官は土曜日のサミットでの発言で、誤解や誤算を避けるために米中間のオープンなコミュニケーション・チャンネルの重要性を強調した。

  • しかし、オースティンのメッセージの核心は、インド太平洋地域の国々とのパートナーシップと同盟関係の強化にあり、同地域における安全保障パートナーシップの強固なネットワークを生み出す「新たな収束」について述べた。

  • オースティン国防長官は、このインド太平洋地域のパートナーシップの収束を、同地域における「安全保障の新時代」を定義するものとして描いており、おそらく中国の影響力拡大に対抗することを目的としている。

一方、中国の董軍国防部長は、「中国のグローバル安全保障観」と題する演説を行った。その要旨を6月3日の新華社は以下のように伝えている。

  • アジア太平洋地域の人々はこれまで、調和を求め、平和を愛し、独立自主してたゆまず努力し、見守り助け合い、運命を共にしてきた。われわれは「アジアの知恵」を活用して共通認識を凝集し、小異を残して大同につくべきである。

  • 中国は各方面と共に、各国の正当な安全利益を守り、公正で合理的な国際秩序を作り、地域の安全枠組みで役割を発揮したいと考える。オープンで実務的な防衛協力を推進し、海上安全協力のモデルを作り、新たな分野の安全ガバナンスを強化し、地域の安全協力の新たな局面を開いていきたい。

  • 中国は和をもって貴となすことを尊重し、共同の安全を追い求め、対等と尊重を堅持し、開放と包摂を重視すると同時に、核心的利益を断固として守る。

  • 現在の南中国海情勢は総体的に安定している。一部の国が利害関係をはっきり認識し、対話と協議の正しい軌道に戻るよう希望する。

  • 中国人民解放軍は速やかかつ断固とした強力な行動で「台湾独立」を阻止し、たくらみを実現させない。

同サミットの中で、オースティン国防長官が、「米国が太平洋で“パートナーシップの新しく強力なネットワーク”を構築していると説明したことであり、これは、中国からの軍事的リスクの増大に対処するために「アジア版NATO」を創設すべき意図があるのではないかと注目された。

「米国はアジアにNATOのような同盟を作ろうとしているのか」、と中国軍将校から直接質問されたオースティン国防長官は、「私たちがやっていることは、同じような価値観を持ち、自由で開かれたインド太平洋という共通のビジョンを持つ国々が、そのビジョンを達成するために協力しているということである。」と答え、「自由で開かれた」地域を維持するために、インド太平洋における米国の同盟国やパートナー間のパートナーシップと協力の強化を推進する一方で、「アジア版のNATO」という枠組みは“明確”に否定した。

オースティン国防長官は、台頭しつつある安全保障ネットワークを、中国を狙った単一の軍事同盟ではなく、ユニークで重なり合う一連のイニシアティブとして表現はしたものの、アジア地域の顕在化しているリスクは、間違いなく、中国による軍事リスクであり、国防以外でも欧米は、中国に対して貿易関税をかけるなど経済制裁を課している中で、オースティン国防長官の発言は、実態としては「アジア版のNATO」のような組織作りを意図しているのかなと思う。

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