米国内に凍結されたロシア資産の差押えについての新たな動き

4月24日(水)にバイデン大統領は、制裁違反の時効を倍増させる条項、ロシア資産の差押さえを許可する条項、中国の親会社が売却しない限りTikTokを禁止する条項、ロシアとイランを追加制裁の対象とする条項を含む国家安全保障パッケージに署名した。

この内、ロシア資産の差押さえを許可する条項は、「ウクライナ人のための経済的繁栄と機会の再建法(Rebuilding Economic Prosperity and Opportunity (REPO) for Ukrainians Act.)」または「ウクライナ人のためのREPO法」と呼ばれ、バイデン政権が米国の銀行に保管されている数十億ドル相当のロシア資産を没収し、復興のためにウクライナに送金することを可能にしたものだ。

米国とその同盟国は、モスクワのウクライナ侵攻が始まると、ロシアが保有する3,000億ドルの外国預金を直ちに凍結した。

この資金は、戦争が激化する中、そのほとんどが欧州連合(EU)諸国にあり、手つかずのまま放置されている。

しかし、そのうちのおよそ50億ドルはアメリカにある。(ABC News)

米国の新法では、大統領と財務省は90日以内に米国内のロシア資産の所在調査を開始し、180日以内に議会に報告することが義務づけられている。

その1ヵ月後、大統領は米国の管轄区域内にある利権を含むロシア国家主権資産を「差し押さえ、没収、譲渡、帰属」させることができるようになる。(同上)

米国は、米国内で凍結したロシアの資産をすぐに差押えるのだろうか?

APによれば、ジェイク・サリバン国家安全保障顧問は4月24日(水)、この問題は6月にイタリアで開催されるG7首脳会議の重要なトピックになるだろうと述べ、「理想的なのは、われわれ全員が一緒に行動することだ」と付け加え、バイデン大統領は、ウクライナの利益のために資金をどのように使うか決定する自由裁量権を与えられているが、行動する前に他のG7メンバーと協議することになるようだ。

ジャネット・イエレン財務長官を含む政策立案者も、「米国はG7の同盟国の支援なしには行動しないだろう。」と述べている。

これに対して、ロシアはどのように反応しているのか?見てみよう。

エルビラ・ナビウリナ・ロシア中銀総裁は4月26日(金)に、ジャーナリストが語ったところによると、米国がロシアの凍結資産を差し押さえたとしても、ロシアの金融の安定は影響を受けることはないという。

ナビウリナ総裁は記者会見で、「金と外貨準備の没収の可能性については、金融の安定に影響はない。ロシア中銀は数年前から外貨準備を多様化しており、現在は制裁の影響を受けない外貨準備で業務を行っている。」と述べ、「これは、もし金融安定化リスクが発生した場合、そのリスクを軽減するのに役立つが、現在のところそのような脅威はない」と同総裁は強調した。

ロイターによると、ウラジーミル・プーチン大統領の盟友であり、ロシアの安全保障理事会の副議長であるメドベージェフ氏は4月27日(土)に、「ロシアは米国による凍結された資金の差し押さえに対して報復することはできないだろう。」と述べた。

これは、ロシアは、国内には、米国で凍結されているロシア資産に見合う、米国の国有財産はないというのが理由のようだ。

メドベージェフ氏は、「私たちが言っているのは、例えば裁判所の決定によって、ロシアの司法管轄区内にある個人の財産(金銭、不動産、現物の動産、財産権)を差し押さえるというこだ。」とTelegramに投稿し、本来であれば、これらの個人は通常、ロシア経済への投資家として行動していたので、ロシア政府は私有財産権の不可侵を保証して来たが、「彼らの国家が我々に対してハイブリッド戦争を宣言したのだ。これには答えなければならない。」と述べた。

こうした中で、ロシア国内で興味深い判決がなされた。RTが以下のように報道している。

ロシア第2位の金融機関であるVTBは4月17日、JPモルガンとその子会社をサンクトペテルブルク・レニングラード州仲裁裁判所に提訴した。

命令の対象となったのは、JPモルガンのロシア口座の資金と、同行のロシア子会社の株式を含む「動産・不動産」である。

紛争の中心は、VTBがJPモルガンの米国口座に預けていた4億3,950万ドルの資金で、2022年にウクライナ関連の制裁措置の一環として凍結されたものだ。

裁判所は、コルレス口座や子会社名義で開設された口座も含め、ロシアにあるJPモルガンの銀行口座にあるすべての資金の差押さえを命じた。

最後に、凍結されているロシア資産が差押えられ、ウクライナの復興に使用されることについては、「凍結されたロシアの資産差し押さえによる米ドルの「武器化」によって、世界的なドル離れが進む可能性がある。」として、RTは元IMFの職員の声を紹介している。

前述のナビウリナ・ロシア中銀総裁も「凍結されたロシアの資金からの利益の差し押さえや資金そのものの没収は、国際市場における基軸通貨としてのユーロとドルの魅力を低下させる」と警告している。(RT)

ロシアのセルゲイ・リャブコフ外務副大臣は木曜日、アメリカが凍結されたロシアの資金を収用した場合、モスクワはワシントンとの外交関係を格下げする可能性があると警告した。

同副大臣は、「資産差押さえに対するモスクワの対応には、経済的・外交的対抗措置が含まれる可能性がある。」と述べた。(RT)

既に、ロシアのウクライに向けての特別軍事作戦以降、ロシアと米国の外交関係はかつてないほど冷めたものになっている中で、これ以上の格下げがあるのかと指摘する声もあるが、ロシア資産の差押さえに日本もG7国として承認すると、日本にはそもそも、ロシア中銀の保有資産は殆どないにも拘わらず、ロシアからの報復措置を受け、ロシアに進出している日系企業の資産が没収される恐れもあり、米国・欧州に追従するだけの外交政策は日本の国益に合致しないのではないか。

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