Daniel DavisのDeep Diveのインタビューは、米国とイランの戦争(いわゆる「イラン戦争」)の意思決定過程とその正当性に対して、元国家対テロセンター高官であるジョー・ケントが内部から批判的に検証したものである。議論の出発点は、彼の辞任という重大な行動の背景にあり、その核心には「米国の戦争判断が自国の国益ではなく、外部要因によって歪められた」という問題意識がある。
ケントはまず、自身の辞任理由として、イラン戦争が米国の主体的判断ではなく、主にイスラエル側の戦略的意図によって誘導された可能性を指摘する。彼によれば、イスラエル政府は2025年のトランプ政権復帰直後から、イランへの軍事行動を強く働きかけており、その過程で外交・情報・メディア・ロビー活動を組み合わせた「エコーチェンバー」を形成し、米国の政策決定環境に影響を与えたとされる。特に問題視されているのは、本来であれば情報機関(IC)が担うべき脅威評価プロセスが迂回され、政治的・メディア的圧力が優先された点である。
さらにケントは、「差し迫った脅威(imminent threat)」という戦争正当化の根拠について、明確に否定している。彼の証言では、イランが短期間で核兵器を開発する能力や意思を持っているという情報は存在せず、むしろ情報機関の評価は一貫して「中長期的脅威」にとどまっていたとされる。加えて、核施設が攻撃された後はその能力は大幅に低下しており、数週間以内に核兵器が完成するという主張は「物理的に不可能」であると断じている。この点は、米政府高官や一部政治家が主張する緊急性と大きく乖離している。
戦争開始に至る外交過程についても重要な指摘がある。ケントによれば、米国とイランの間では一定の交渉進展が見られており、核問題に関する妥協点(例えば濃縮活動の制限や査察受け入れなど)が視野に入っていた。しかし、この外交的進展こそがイスラエル側にとっては脅威となり、結果として軍事行動によって交渉を中断させる方向に動いた可能性があると述べている。この構図は、外交的解決が戦争によって意図的に阻害された可能性を示唆するものである。
軍事面についても、ケントは現行戦略の限界を強調する。米軍および同盟側は大量の兵器を投入し、数多くの目標を攻撃しているものの、これは戦略的勝利を意味しないと指摘する。むしろ、イランは弾道ミサイルやドローンを用いた持続的攻撃能力を維持しており、「負けないことで勝つ」という非対称戦の典型的戦略を採用していると分析する。過去のイラク戦争やアフガニスタン戦争と同様に、米国は戦術的優位を持ちながらも戦略的成果を得られない「消耗戦」に陥るリスクが高いとされる。
特に深刻なのは、地上軍投入の可能性である。ケントは、もし米軍がホルムズ海峡周辺やイラン本土に上陸した場合、それはイラン側にとって「戦略的贈り物」になると警告する。すなわち、イランは機雷・ミサイル・ドローンを用いて米軍部隊を孤立させ、人質化することが可能であり、長期的消耗戦に引きずり込むことができる。このシナリオは、米国にとって極めて不利であり、過去の戦争の教訓を無視したものだとされる。
また、エネルギー安全保障の観点からも本戦争のリスクは極めて高い。ホルムズ海峡の封鎖や不安定化は、世界的な原油供給に直接的影響を与え、価格高騰と経済混乱を引き起こす可能性がある。ケントは、軍事行動によってこの問題が解決されることはなく、むしろ事態を悪化させると指摘し、外交による解決こそが唯一の現実的選択肢であると強調する。
結論として、ケントは本戦争を「米国の国益に基づかない戦争」と位置づけ、その根本原因を以下の三点に整理している。第一に、外部(特にイスラエル)からの戦略的影響、第二に、情報機関の分析よりも政治・メディア圧力が優先された意思決定構造、第三に、過去の中東戦争の教訓を無視した過度な楽観主義である。そして解決策として、イスラエルの軍事行動を抑制し、交渉を再開すること、すなわち外交への回帰を最優先とすべきだと結論づけている。
