Mark Slebodaは、国際関係および安全保障のアナリストで、特にロシア、ウクライナ、NATOに関する地政学的な問題についての分析で知られています。
この番組は、トランプ政権2期目のウクライナ戦争・対ロシア戦略と、戦場の現実とのギャップを軸に展開されています。冒頭で司会のレイチェルは、トランプが最新インタビューで「ウクライナは選挙を行うべきだ」「ウクライナはNATO加盟はあり得ない」などと発言し、数週間前まで「ウクライナは勝てる」「ロシアは大損害だ」と言っていたのと真逆のメッセージを出していることを指摘します。米国・欧州・キーウが乱発してきた「和平案」はどれもロシアが受け入れられる中身ではなく、戦争の現実を真剣に直視していない「プランごっこ」であり、その間にもロシア軍は戦場で着実に前進していると問題提起します。同時に、西側は国内世論向けに「ロシア軍は大損害」「ウクライナはまだ勝てる」といったプロパガンダを流し続けており、イメージと現実が完全に乖離していると強調します。
ゲストのマーク・スレボダは、まずトランプ周辺の人事と「28項目和平案」の顛末を整理します。安全保障担当として前面に出ていたケロッグは外され、代わって陸軍長官のダン・ドリスコルが「ウクライナ特使=ゼレンスキー政権のベビーシッター」として投入されたと説明します。ドリスコルはJD・ヴァンスの古い友人で、ハーバード/イェールのロースクール以来の関係とされ、典型的な「トランプ=ヴァンス個人への忠誠人事」であって、国務省や従来の外交官僚から出てきた人材ではないと指摘します。こうした人事の長所は、「ロシア・中国・イランは永遠の敵」「米国主導の世界覇権は絶対」といったワシントンのイデオロギーにどっぷり浸っていない点だが、短所として、プロの外交経験や専門能力が決定的に不足していると批判します。
スレボダは、トランプの「28項目和平案」が提示された過程と、その空虚さを詳しく語ります。トランプ陣営はこの案を「感謝祭までにゼレンスキーがサインしなければ制裁」といった形で最後通牒として打ち上げましたが、期限を過ぎても何の「結果」もなく、ゼレンスキーも欧州も「ノー」、ロシアも礼儀正しく拒否し、ワシントンのディープステート・議会・ペンタゴン・軍産・メディアもほぼ総反対で、事実上トランプとヴァンス、ウィトコフ、ドリスコルなどごく少数だけが賛成していたとされます。その後も欧州とキーウは、ロシアが受け入れるはずのない「毒入り和平案」を次々と捏造し、まるでカードを配るように「プランを回す」だけの茶番が続いていると嘲笑します。彼の総括は、「クレムリンの本音を平たく訳せば『いいから黙って戦え(Shut up and fight)』ということだ」という非常に辛辣なものです。
そのうえでスレボダは、「和平プロセス」が世界向けの見せ物として続く一方で、ロシア軍は戦場で一切ブレーキを踏んでおらず、むしろ「蒸気ローラー」のように前進していると、具体的な戦況分析に入ります。彼によれば、ポクロフスクはすでに数週間前からロシアの完全支配下にあり、ウクライナ政権の宣伝が否定しているにもかかわらず、西側主流メディアも渋々これを認め始めています。ポクロフスクから退却したウクライナ部隊の多くは東側のミルノフラド(ロシア語でドミトリエフカ)に逃げ込むか、実質的に「追い込まれた」状態で、ここに「大釜」が形成されていると説明します。ウクライナ軍は大釜の蓋をこじ開けようと激しい反撃を繰り返してきましたが、突破に失敗し、前線はむしろ後退。現在はミルノフラド北西隅の狭いエリアに押し込まれ、補給路は遮断、ドローンによるわずかな物資投下に頼るだけで、通信も寸断されていると描写します。
ロシア軍は建物ごとに前進し、降伏勧告に応じない場合には突入して制圧するか、滑空爆弾で建物ごと破壊するやり方を取っており、ミルノフラド戦は軍事的にはすでに「掃討戦フェーズ」に入っているとスレボダは判断します。同様のパターンはドンバス北中部のセヴェル、リマン、ハルキウ南部、カンスク、コンスタンティノフカなど複数都市で同時進行しており、これらの都市でも市街戦と部分包囲が進み、状況次第ではポクロフスク同様の大釜に発展し得ると警告します。特に南部の東ザポロージャ戦線では、ロシア軍が主要拠点フリャイポレ市内に急速に突入し、予想以上のスピードで建物制圧と包囲形成を進めていると述べます。本来であればキーウ側はこの都市から部隊を撤退させ、より防御に適したラインに移すべきですが、政治的理由から「死守命令」が出され、兵士たちが無駄死にを強いられていると強い怒りを表明します。
ザポロージャ一帯では、小さな集落群を含めてロシア軍が東側・西側の両方向から急速に前進しており、西ザポロージャでは2023年のNATO主導夏季反攻の出撃拠点となったベレャフの包囲に向けて動いていると指摘します。スレボダは、フリャイポレ陥落後はザポロージャ市への「ほぼ直通ルート」が開けるため、同市は春頃までに主要標的となる可能性が高いと予測します。さらに彼は、ロシアが3夜連続で大規模な長距離攻撃を行い、ウクライナ側自身が「一晩で700発」「別の夜で1000発」などと発表していることを紹介し、ウクライナ全土が毎晩のようにミサイルとドローンで激しく叩かれていると強調します。その結果、多くの地域で1日16時間に及ぶ計画停電が常態化し、一部では完全なブラックアウトも生じていると予想します。
重要なのは、攻撃対象が発電所や送電網だけでなく、鉄道インフラ全体に広げられていることだとスレボダは指摘します。従来ロシアは「壊してもすぐ修理される」ため駅や変電所・線路などへの攻撃を抑制してきましたが、ゲラン(自爆ドローン)の生産量が大きく増加したことで、こうした目標にも継続的に攻撃を加え、修理能力そのものを削ぐことが可能になってきたと説明します。鉄道は軍事輸送の要であり、東部だけでなくキーウ周辺の鉄道網も標的となっているため、ウクライナ軍の兵站能力は中長期的に致命的なダメージを受けていると分析します。同時に、ウクライナ側のドローン製造施設など防衛産業インフラも集中的に破壊されており、「技術・生産能力の面でも完全なオーバーマッチが起きている」と彼は表現します。
ここから議論は、西側シンクタンクとメディアの「認知の歪み」に移ります。レイチェルは戦争研究所(ISW)とワシントン・ポストの共著論説「要塞都市が崩れつつある不吉な地図」を取り上げ、この記事がポクロフスク陥落をなお認めず、「多くの軍事アナリストは、いずれポクロフスクが陥落すると見ている」と未来の話として書いていることを批判します。スレボダは、ISWは実際に何が起きたかを分かっていながら、クライアントであるキーウ政権が虚偽の発表を続けているとは書けないため、「そのうち落ちる」という婉曲表現でごまかしていると分析します。また、西側の常套句として、「ロシアが占領した地点は、占領後は必ず『戦略的価値が低い』とされる」というパターンを挙げ、極端な例として「いずれキーウまで取られても『大したことはない』と言い出しかねない」と皮肉ります。
しかし、ワシントン・ポストの記事自身も、ポクロフスクが輸送・兵站の要であり、主要ハイウェイと鉄道ネットワークを掌握する重要なハブであることを認めているとスレボダは指摘します。ポクロフスク掌握によりロシアはドンバスのほぼ全ての鉄道網を支配し、ウクライナ側はスラビャンスク/クラマトルスク方面の最後の防衛線への供給能力を失うことになります。さらにポクロフスクは周囲より高地にあり、西はドニプロ川岸まで、北はスラビャンスク方面まで地形的優位を持つことができるため、砲兵・観測・防衛線構築の観点からも極めて重要だと説明します。破壊されずに残った建物にはロシア軍が駐屯し、次の攻勢のための兵力集積拠点として利用できるため、西側メディアが言うような「取る価値のない街」ではまったくないと断じます。
スレボダが特に批判するのは、西側メディアが最終的に頼る「ロシアは途方もない犠牲を払った」という損害誇張です。ウクライナ側の発表やNATO筋の数字をそのまま受け売りし、「ロシア兵100億人戦死レベルのナンセンス」と彼が揶揄するような荒唐無稽な被害数を広めていると批判します。自らの試算では、西側情報源から検証可能なデータに基づき、ロシア側戦死者は戦争全体で約15万人であり、それ自体は大きな悲劇だが、宣伝数字とは大きく乖離していると述べます。一方、ウクライナ側の死者は「その数倍」に達していると見ており、この非対称性は戦後しばらく経つまで公には語られないだろうと予測します。戦時プロパガンダの目的は、徴集兵に戦い続けさせ、西側からの武器・カネの流れを維持し、自国世論の「なぜ我々が高いエネルギー代とインフレに苦しみ、腐敗した政権を支え続けるのか」という疑問を抑え込むことだと総括します。
番組後半では、トランプ政権2期目に備えて作成された新国家安全保障戦略文書が取り上げられます。この文書は、西半球(ベネズエラなど)を最優先とする一方、中東への関与を相対的に減らし、中国との台湾をめぐる緊張は維持しつつも「現状維持」に重心を移す構想を示しています。ロシアについては、米国をあくまで「第三者的仲介者」と位置づけ、「ヨーロッパとロシアの戦争」という構図にしようとする試みが見られるとされますが、スレボダはこれは「そもそもこの戦争を作り出した中心的当事者が米国である」という事実を隠す詭弁に過ぎないと批判します。同時に、文書には多極世界における米国パワーの軍事・経済・政治的限界を認める現実主義的な側面があり、「覇権の完全放棄ではなく、いったん後退して体勢を立て直す覇権の再編(hegemonic retreat and retrenchment)」という思想が読み取れると評価もします。
この戦略は、長年の対中タカ派であったエルブリッジ・コルビー国防次官(政策担当)の知的産物とされ、彼自身も最近の軍事バランスのデータを踏まえて対中戦略を修正しつつあるとスレボダは推測します。太平洋では米軍が一歩引き、フィリピン・日本・韓国・オーストラリアなどの同盟国を前面に立てる代理戦略を採用しつつ、台湾問題では少なくとも当面の独立宣言や即時軍事衝突を避け、「現状維持」を志向しているように見えると述べます。欧州についても同様に、「ロシアとの地上戦・消耗戦のコスト(血とカネ)を欧州側に押し付ける」分業構想があり、トランプは最終的な敗北の責任を自らではなく欧州指導者の肩に乗せたいのだろうと分析します。
しかし、この文書で最も急進的なのは、西半球に関する「新モンロー主義」ともいえる部分です。トランプは文書の中で、西半球を丸ごと「米国の勢力圏」と宣言し、ロシア・中国・イランなどがここで経済的・政治的影響力を持つことさえ許さない姿勢を打ち出しているとスレボダは指摘します。これは一方で「世界のどこでも政権交代は嫌だ」と言いながら、西半球だけは例外としてベネズエラなどに対する政権交代を含むあらゆる介入を正当化するものであり、「露骨な二重基準」であると厳しく批判します。この構想の下では、南米・中米・ラテンアメリカ全体が「短い棒(割を食う側)」を引かされ、米覇権の再編プロセスの中で最も犠牲を負わされることになると警鐘を鳴らします。
また文書は、移民・難民問題を軍事・経済よりも優先される「安全保障の核心」と位置づけ、EUの移民政策や政治的方向性を「文明的自殺」「文明消滅」といった表現で断罪していると紹介します。民主主義・人権・リベラル国際秩序といったレトリックはほとんど姿を消し、「権威主義 vs 民主主義」といった二元論も前面には出てこないと指摘します。むしろ民主主義への最も激しい批判はロシアや中国ではなく、トランプ的ポピュリスト右派を抑圧しているEUと欧州諸国の体制に向けられており、トランプは文書の中で「志を同じくする保守ポピュリスト政党への支援」を通じて、事実上ブリュッセル体制に対するカラー革命を仕掛けると公言していると説明します。このため欧州の指導者たちは、これを文明論的な敵対宣言として受け止め、衝撃と恐怖を感じているが、現時点ではトランプを刺激することを恐れて表立った批判を控えているとされます。
最後にスレボダは、この戦略文書が現実の政策として実施される可能性は低いと冷静に見ています。トランプ政権内部の多くの人間、議会の両党、官僚機構、ペンタゴン、情報機関、軍産複合体、シンクタンク、メディアなど、ワシントンのほぼ全ての権力層がこの「覇権再編路線」に反対しており、既存の「米国主導の世界覇権」路線を維持しようとしているからです。ウクライナについても、文書が求めるのは「迅速な敵対行為の停止=停戦」に過ぎませんが、ロシアはすでに「恒久的な政治的解決を伴わない単なる停戦には応じない」と表明しており、戦略はすれ違ったままだと指摘します。彼の結論は、トランプ戦略は「善意の多極共存」ではなく、「覇権を維持しながら血とカネの負担を同盟国にさらに押し付ける19世紀型帝国主義への回帰」に過ぎず、ディープステートの強固な抵抗も相まって、実務的には「面白いが実現困難なファンフィクション」に近いというものです。レイチェルも、トランプの発言は明日にはまた変わり、構造的な体制抵抗は続くため、この文書を「平和への希望の青写真」と誤解すべきではないと補足し、二人は「戦場での現実と、西側の自己欺瞞との乖離」がさらに拡大しているという認識を共有して番組を締めくくります。
