Prof. Jeffrey Sachs : Underestimating Russia.

このJudging Freedomのインタビューでジェフリー・サックス教授は、まずイスラエルと中東情勢をめぐって非常に厳しい評価を示します。イスラエル国内の報道として、ネタニヤフ首相がヘルツォグ大統領に対し、自身への恩赦を出すよう圧力をかけているとの話題が紹介されます。教授は「今のイスラエルでは何が起きても驚かない」と述べ、現在のイスラエルを「無法国家」、ネタニヤフを「無法で無謀、殺人的な人物」とまで断じます。戦争犯罪に問われるべき指導者に恩赦を与える発想自体が、法の支配を完全に踏みにじるものだと批判します。さらに、トニー・ブレア元英首相が「ガザの総督」のようなポスト候補としてトランプ政権内で検討されたとの報道についても、ブレアを「別の戦争犯罪者」と呼び、世界の多くの問題—特に中東の混乱—の出発点は英国の植民地政策と分割統治にあると皮肉を込めて語っています。

続いて教授は、イスラエルによる「停戦遵守」の有無について問われると、イスラエルは実際にはガザの恒久占領、インフラ破壊、継続的な殺害、そして住民の民族浄化と追放を目指していると述べます。西岸についても、事実上の併合(デファクト)から将来的な正式併合(デジュール)へ向かう一貫した政策だと分析します。米国はこれに対し明確に「ノー」とも「イエス」とも言わず、実質的に容認している態度をとっており、国際法や人道の観点から極めて問題だとしています。ここでイスラエル・英国・米国という三者が、法の支配や国際秩序よりも自らの地政学的・国内政治的利害を優先し、中東の不安定化を長期化させているという構図が浮かび上がります。

本題である「ロシアを過小評価している」というテーマに入ると、サックス教授は歴史をさかのぼり、1990年前後の冷戦終結とNATO拡大問題から話を始めます。ゴルバチョフは「ロッテルダムからウラジオストクまでの共通のヨーロッパの家」という構想を提示し、ワルシャワ条約機構を解体して軍事ブロック対立を終わらせようとしました。その際、米国とドイツは「NATOを1インチたりとも東に拡大しない」と繰り返し約束したにもかかわらず、その後約束を破って東方拡大を進めたと教授は強調します。本来、NATOは「ソ連からの侵攻」に対抗するための同盟であり、ソ連解体後は存在理由を失っていたはずなのに、米国は自らの覇権維持のために約束を反故にし、ロシアの安全保障上の懸念を無視してきた—これが現在の戦争の根本原因だと指摘します。ロシアの一貫した要求は「米軍=NATOを自国国境に近づけるな」というものであり、これは米国自身が自分の半球について主張してきたモンロー主義と同じ論理だ、と reciprocity(相互主義)の観点から米国のダブルスタンダードを批判します。

ロシア経済については、教授は「大きく、多様で、高度に発展した経済」であり、単純な資源依存国家ではないと評価します。もともと欧州との貿易が地理的に最も自然な関係(重力モデル)だったにもかかわらず、この10数年の対立と制裁によって、その「自然な」貿易関係が人工的に断ち切られました。しかしその結果苦しんでいるのはむしろ欧州側であり、ロシアは中国・インド・東南アジア・中央アジア・アフリカなどへ市場を多角化させ、柔軟に対応してきたと説明します。これに対してドイツは、ロシアの安価で安定した天然ガスを失ったことで重工業の競争力を喪失し、「脱工業化」が進んでいると指摘。米国は当初から、欧州とロシアのエネルギー・経済関係が強化されることを嫌い、ノルドストリーム計画にも一貫して反対してきたとし、CIA によって長年育成された親米的な欧州政治家たちが、米国の方針に従うことで自国経済を傷つけていると批判します。

その上で教授は、現在トランプ政権がロシアとの間でビジネスや資源開発を含む「現実的な落としどころ」を模索しているにもかかわらず、むしろ欧州側が「決してロシアと和解しない」「永続的な分断を維持する」と強硬姿勢を取っていることを「奇妙かつ自滅的」と評します。欧州経済は停滞どころか衰退局面に入りつつあるのに、首脳たちは国内の経済危機よりもウクライナ戦争に執着している。ショルツ、スターマー、マクロンといった指導者の支持率が軒並み 2~3 割以下と低迷していることを挙げ、民意から遊離した「戦争推進エリート」として描きます。彼らの最後の策として「ベルギーのユーロクリアにあるロシアの凍結資産を事実上盗み、その金で米国から武器を買って戦争を延命させる」という案が推進されているが、これは違法であり、実現可能性も低く、結果としてはウクライナ人の死傷者を増やすだけだと断じます。

ここでサックス教授はトランプ大統領の決断の重要性を強調します。もしトランプが「たとえロシア資産を没収して資金があっても、米国はこれ以上ウクライナ向け武器を売らない」と明言すれば、実質的に戦争は終わると主張します。これまでトランプがリンゼー・グラムや軍需産業寄りの議員から「自前の資金で買うなら武器は売るべきだ」と圧力を受けてきた経緯はあるものの、現実には米国の主要兵器システムは在庫不足や運用の複雑性により簡単には供給できず、米軍の関与なしには使えないものが多い、と技術的制約にも触れます。したがって、米国が「この戦争は我々の側からは終わり」と宣言すれば、欧州もウクライナも最終的に停戦・和平の交渉に向かわざるを得なくなるという見立てです。その際の核心条件は、「ウクライナの中立化」と「NATO の非拡大」、そして戦場の現実に基づいた領土の扱いの整理だと教授は繰り返し確認します。

さらに教授は、人道的な観点から現在の戦争継続がいかに「反ウクライナ的」であるかを強調します。2022年春、トルコが仲介したロシア・ウクライナ間のイスタンブール合意案が、米国側の介入で潰されなければ、その時点で戦争を終わらせることができ、多くのウクライナ人の命が救われたはずだと指摘します。精密な数字は不明ながら、2022年春以降おそらく 200 万人規模のウクライナ人が死亡または重傷を負ったと推計し、自分が当時「今すぐ停戦して交渉による和平を」と訴えた際に、主流メディアから「反ウクライナ」と激しく攻撃されたエピソードを回想します。教授にとっては、戦争を長引かせることこそが「反ウクライナ」であり、戦争終結と妥協を通じて人命を救うことが真の「プロ・ウクライナ」なのだという価値観が一貫しています。また、ゼレンスキー政権は戒厳令下で選挙も行っておらず、腐敗した体制であり、世論調査(ギャラップなど)を見る限り、大多数の国民は交渉による和平を望んでいると指摘し、現在の欧州・米国エリートが「ウクライナの民主的意思」を盾に戦争継続を正当化するのは虚構だと批判します。

最後に、教授はロシアと欧州の将来関係、そして NATO の存続可能性について警鐘を鳴らします。プーチン大統領が再三「我々は欧州を攻撃するつもりはない。だが攻撃されれば戦う」と明言しているにもかかわらず、欧州側はこれを「ロシアの好戦性の証拠」と捻じ曲げて解釈していると批判します。そうではなく、ロシア側は「NATO 拡大と核戦争の危険を回避したい」という安全保障上の合理的要求を持っており、交渉による枠組みをつくる意思もある—だからこそ、プーチンがラブロフらの外務官僚だけでなくクシュナーやウィトコフのようなトランプ側の実務家とも何時間も直接話しているのだと説明します。これに対し欧州諸国の指導者たちは、ロシアと直接対話する努力をほとんどせず、「交渉に入れてほしい」と口では言いながら、自ら電話をかけることも飛行機で会いに行くこともしていないと痛烈に批判します。このまま欧州が対ロ敵対政策と戦争路線に固執し続ければ、米国内では「なぜそんな地域を守るために我々が戦争のリスクを負うのか」という疑問が高まり、最終的には NATO そのものへの支持が失われかねないと警告し、欧州は「和平への意思」を具体的な外交行動で示さなければならないと結んでいます。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

上部へスクロール