FirstpostのYouTube動画”Putin says Russia “Ready for War” with Europe | Vantage with Palki Sharma | N18”から。
モスクワではこの日、和平への期待と緊張が交錯する極めて慌ただしい一日となった。米国のスティーブ・ウィトコフとジャレッド・クシュナーが、トランプ政権が用意したウクライナ和平案を携えてクレムリンを訪問し、ウラジーミル・プーチン大統領と5時間に及ぶ会談を行った。しかし、期待された「画期的な進展」は見られず、依然として双方の立場は大きく隔たったままである。本来ならば和平プロセスに弾みをつけるはずの会談であったが、領土問題など核心的争点に踏み込むなか、戦争終結には程遠いことが露呈した。
会談直前、プーチン大統領は欧州に対して強烈なメッセージを発した。「ロシアは欧州と戦うつもりはないが、もし欧州が戦争を望むなら今すぐにでも準備ができている」と述べ、欧州諸国はこれを露骨な脅しと受け止めている。プーチンがあえてこのタイミングで欧州に矛先を向けた背景には、ロシアの見立てとして「欧州こそ和平の最大の障害である」という強い認識がある。米国がまとめた28項目案はウクライナに大きな譲歩を求める内容で、戦場で劣勢のウクライナに現実的対応を促すものだったが、これに反発した欧州とウクライナが19項目の対案を作成したことで、ロシアは交渉妨害の意図を欧州に見ている。
ロシア側が最も問題視するのは、欧州が追加した要求が「ロシアが絶対に受け入れないと分かっていながら」設定されている点である。プーチンは「欧州の狙いは和平プロセスそのものを潰し、責任をロシアに押し付けることだ」と指摘した。これにより、クシュナーとウィトコフが示した19項目案も、ロシアにとっては欧州の政治的駆け引きの延長として受け取られ、交渉の信頼性を揺るがすものとなっている。
会談では特に領土問題が集中的に議論された。ロシアはドンバス地域の88%をすでに支配しているが、残る12%の完全放棄をウクライナに求めている。また、2014年に併合したクリミアの法的地位について国際承認を強く要求している。ゼレンスキー政権にとって、この2点は国内政治的にも軍事的にも「譲歩すれば政権が崩壊しかねない」ほどの重要問題であり、拒否すれば米国の支持を失う可能性があるという二重の板挟みに陥っている。このジレンマが和平交渉の停滞を生み出している。
一方、トランプ大統領は和平進展の遅れに苛立ちを募らせている。「自分が大統領ならこの戦争は起きなかった」と繰り返し主張しつつ、就任後10か月経っても終結できない現状に不満を隠していない。トランプ政権が交渉から関心を失い始めれば、ウクライナは最大の後ろ盾を失うこととなり、その場合、欧州が本当に代わりを務められるのかが問われる。しかし、欧州外相会合ではロシア産ガスの扱い、凍結資産の使用などを巡り、加盟国の分裂がむき出しになった。特にベルギーはロシア資産の供与を国際法違反とみなし反対するなど、内部対立は深刻だ。
こうした欧州の分裂を、プーチンは明確に戦略的に利用しようとしている。欧州が団結してウクライナ支援を強化できなければ、ロシアに有利な交渉条件を押し付ける余地が広がる。プーチンによる「欧州への威圧的メッセージ」は、この分断をさらに拡大させ、欧州に譲歩を強制するための政治的賭けでもある。成功すればロシアにとって大きな外交勝利となるが、失敗すれば対立がさらに激化するリスクも抱えている。
総じて、今回の会談は「和平に向けた前進」というよりも、米国・欧州・ロシアの戦略的対立と相互不信を一層鮮明にした。その結果、戦争終結への道筋は依然として曖昧であり、むしろ複雑化している。領土問題の解決とウクライナの安全保障体制の再構築、そして欧州内部の分裂という三つの要因が、和平実現への最大の障害となっていることが改めて浮き彫りになった。
