ロシア中央銀行の凍結資産からの偶発的利潤を利用した、EUによるウクライナ協調融資_Update

掲題の件でEU内部での新しい動きが確認できたので、ご紹介したい。

 
 
 
 
 

9月20日にEuropean Commission (EU)から

“Commission proposes up to €35 billion MFA loan for Ukraine as the EU’s contribution to the EU-G7 support of up to €45 billion”

と言うプレス・リリースの発表があり、

「欧州委員会は本日、450億ユーロを上限とするウクライナ融資協力メカニズム、および350億ユーロを上限とする例外的なマクロ金融支援(MFA)融資から成る包括的な金融支援パッケージを提案し、ウクライナへの支援強化に向けて決定的な一歩を踏み出した。」

と述べた。

このプレス・リリースでは、改めて、「ウクライナ融資協力メカニズム」を以下のように説明している。

  • 欧州委員会はまず、EUとG7のパートナーがウクライナに対して450億ユーロを上限に融資を行うことを支援する、「ウクライナ融資協力メカニズム」の設立を提案する。ウクライナがロシアの侵略の激化により前例のない課題に直面し続けている中、この提案は、ウクライナの主権と経済の回復力に対するEUの揺るぎないコミットメントを強調するものである。

  • ウクライナ融資協力メカニズムは、ロシア中央銀行の凍結した資産から生じる偶発的利益を活用し、ウクライナに支援を提供する。

  • ウクライナはこの支援を利用して、EUおよびG7の‘Extraordinary Revenue Acceleration Loans for Ukraine’ (ERA) initiative(「ウクライナ向け特別歳入加速融資」(ERA)イニシアティブ)に参加する他の貸し手からの適格融資を返済することができる。

前日のEUのプレス・リリースを受けて、9月21日のEuronewsの

“How the EU will tap into Russia’s frozen assets to raise €35 billion for Ukraine”

と言う特集記事を出しており、この中で、EUの融資額が従前の案から大幅に増額になった背景について以下のように説明している。

  • 当初の構想では、EUと米国がそれぞれ200億ドル(180億ユーロ)を拠出し、英国、カナダ、日本が残りの額を500億ドルになるまで融資するというものだった。


  • しかし、ワシントンはブリュッセルの制裁更新方法に難色を示した。EUの法律では、原油禁止からブラックリストに載ったオリガルヒに至るまで、ロシアに対する制裁は半年ごとに全会一致の投票で延長される必要がある。

    つまり、ある時点でハンガリーのような加盟国が更新を阻止して資産の凍結を解除し、融資が破綻して西側の同盟国が大きな財政リスクにさらされる可能性があるのだ。

  • たとえ、ロシアの激しい爆撃を受けているウクライナ情勢が、冬の季節を前にして絶望的になったとしても。前述のシナリオが予想されるため、EUとアメリカの当局者間の交渉は遅々として進まなかった。

そこで、フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長は、ウルスラ・フォン・デア・ライエンは、ワシントンと他の同盟国を説得するために、350億ユーロという予想以上の分担金を提示したとされている。

この背景には、本年11月の来るべきアメリカ大統領選挙とドナルド・トランプ前大統領の再選の可能性が、欧州委員会委員長がEU、G7の協調融資を早期に実現させないといけないと言う決断をさせたことは容易に想像できる。

親ロシアのハンガリーの拒否権については、9月20日のBloombergの

“EU Plans New €35 Billion Loan for Ukraine Under G-7 Plan”

と言う記事の中では、

「ウクライナを支援するEUの取り組みをしばしば遅らせたり妨害したりしてきたハンガリーは最近、ロシア資産の固定化に関する決定を11月5日のアメリカ選挙が終わるまで延期することを提案した。」

と言う事例を紹介し、欧州委員会は、米国の懸念を和らげようと、加盟国にロシア資産の固定化を長期化するための複数の選択肢を提示したと伝え、

「選択肢のひとつは、資産凍結の更新期間を36ヶ月に延長することだった。もうひとつの提案は、更新期間を5年間延長するというものだったが、このオプションは、制裁のロールオーバーが適格多数決で認められた場合、法的な問題を引き起こす可能性があると、匿名を条件に語った。最終的な提案は、セクター別制裁と中央銀行の資産凍結の両方を36ヶ月間延長するというものだった。」

と言う舞台裏の事情を報じた。

前述のEuronewsでは、このハンガリーの持つ拒否権については、以下のように更に詳細に解説をしている。

  • 融資とは異なり、この資産凍結期間の更新期間案は全会一致が条件となるため、ハンガリーは政治的影響力を維持するために、この案を頓挫させ、現在のルールを維持する可能性がある。

  • 欧州委員会関係者によれば、法的に言えば、拒否権が発動されても350億ユーロの融資が変更されることはなく、ブリュッセルは更新期間の延長の有無にかかわらず、融資を進めるという。「制限的な措置が続く限り、資金は流れ続ける」と当局者は述べた。

  • さらにジョセップ・ボレル欧州委員会副委員長は、資産凍結を解除するために2つの政治的条件を付け加えた: ロシアが敵対行為を停止し、ロシアが賠償金を支払うことである

結局、ハンガリーの拒否権問題については、明確な解決策はなく、EU加盟国はこのアプローチを支持しているが、現実には、ロシアの資産凍結期間の更新期間が6カ月後か36カ月後かにかかわらず、ハンガリーが凍結された資産に対する拒否権を保持することになるので、米国大統領選挙の結果次第では、このEU及びG7のウクライナ向け協調融資に大きな影響を与えることになるのではないか。

前述のEuropean Commission (EU)のプレス・リリースによると、欧州委員会は、今年末までに350億ユーロの融資を調達する必要があるため、欧州理事会と欧州議会に対し、この提案を迅速に進めるよう要請していると言うことで、理事会での採決は適格多数決で行われるため、融資自体に個別の拒否権はない。

このため、迅速な合意への期待が高まっている。“順調にいけば”、欧州委員会はキエフが一連の政策条件を満たしていることを確認した後、2024年末か2025年初頭に最初の融資を行う可能性がある。

350億ユーロは、一括払いも可能だが、2025年を通じて徐々に支払われる見通しだ

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