Judging Freedomにミヤシャイマー教授が登場。
■ 全体像:短期決戦の失敗と「戦略的行き詰まり」
本インタビューにおいてJohn Mearsheimerは、現在の米国とイランの戦争状況について、「極めて不安定(remarkably precarious)」という評価を提示する。その核心は、米国が当初想定していた「短期かつ決定的勝利」が実現せず、長期消耗戦に移行した結果、戦略的主導権がイラン側に移ったという点にある。
彼の分析によれば、現状では米国がエスカレーション(軍事的拡大)を行っても、それは自国の優位にはつながらず、むしろイラン側に有利に働く構造になっている。さらに重大なのは、戦争を終結させるための「実行可能な出口戦略(off-ramp)」が存在しないことであり、その意味でトランプ政権は戦略的に「行き詰まった状態」にあると位置づけられている。
■ 誤った前提:モサド主導の「体制崩壊シナリオ」
戦争の初期判断において重要な役割を果たしたのが、イスラエルの情報機関による分析であったとされる。特にモサド長官(当時)の説明に基づき、「イラン指導部の斬首作戦(decapitation strike)によって体制が崩壊し、国内で大規模な蜂起が発生する」というシナリオが、米国およびイスラエル双方で共有された。
しかし、この前提についてミアシャイマーは、既存の政治学・クーデター研究の蓄積から見て「極めて成功可能性が低いもの」であったと指摘する。実際、モサドの前任長官は同様の見解を「非現実的」と評価しており、今回の判断は分析の質という点でも問題があったとされる。結果として、誤った前提に基づく戦争開始が、現在の戦略的困難を招いたという構図が示されている。
■ 米国内意思決定:情報機関の警告と政治的選好
米国内では、軍や情報機関(CIA、国家情報会議など)が戦争に対して慎重、あるいは否定的な見解を提示していたとされる。これらの組織は、戦争に勝利するための現実的な戦略が存在しないことを事前に認識していた。
しかしながら、トランプ政権はこれらの助言よりも、イスラエル政府および米国内の親イスラエル政治勢力の意見を優先したとされる。具体的には、政治家や側近(例:リンゼー・グラム、ジャレッド・クシュナー等)が戦争推進の方向に影響を与えたと指摘されている。この結果、戦略合理性よりも政治的圧力が意思決定を左右した可能性が示唆されている。
■ 交渉不可能性:要求条件の構造的対立
停戦および和平交渉について、ミアシャイマーは「構造的に成立しない」と明言している。その理由は、米国・イスラエル側とイラン側の要求が根本的に両立しないためである。
イラン側は、米軍の中東撤退、経済制裁の解除、さらには賠償を求めている。一方で米国およびイスラエルは、イランに対し核開発の放棄、弾道ミサイル能力の放棄、さらにはヒズボラやハマスといった代理勢力への支援停止を要求している。このような要求の非対称性から、現実的な妥協点が存在しないという分析が示されている。
また、イラン外相の発言として、過去の交渉中に米国が攻撃を行ったことから、米国との交渉自体に対する信頼が完全に失われている点も強調されている。
■ イランの戦略合理性:長期戦志向
ミアシャイマーの分析の中核は、「イランにとっては戦争を長期化させることが合理的である」という点である。戦争が長引くほど、西側諸国が負担する経済的・政治的コストは増大し、それに伴いイランの交渉上のレバレッジ(交渉力)は高まる。
したがって、イラン側には現時点で停戦に応じるインセンティブは存在せず、むしろ戦争を継続し、西側を「経済危機の瀬戸際」に追い込むことが合理的戦略となる。このような状況に至って初めて、米国は大幅な譲歩を伴う交渉に応じざるを得なくなる、というのが彼の見立てである。
■ 軍事的オプションの限界:地上戦の非現実性
米国が検討し得る軍事的選択肢についても、ミアシャイマーは極めて悲観的な評価を示している。特に地上軍投入については、いかなる作戦シナリオも現実的ではないとされる。
例えば、限定的な島嶼占領作戦であっても、上陸の困難性、占領後の維持の困難性、さらには戦略的成果の不透明性など、複数の問題が指摘されている。また、イラン本土への侵攻については、人口約9300万人という規模から見ても、現実的に必要な兵力(数百万規模)が確保不可能であるため、選択肢として成立しないとされる。
■ エスカレーションと世界経済リスク
戦争のさらなるエスカレーション、特にエネルギーインフラへの攻撃は、世界経済に深刻な影響を及ぼすと警告されている。イランは、攻撃を受けた場合、湾岸諸国のエネルギー施設や淡水化プラントを標的とする可能性を示唆しており、その場合、地域社会の機能が大きく損なわれるリスクがある。
このようなシナリオは、石油・ガス供給の混乱を通じて、世界的な経済危機を引き起こす可能性がある。ミアシャイマーは、この「世界経済の崩壊寸前」という状況こそが、唯一の戦争終結圧力となり得ると指摘している。
■ 国際社会の評価:広範な「戦略的誤り」認識
国際社会の反応については、欧州諸国およびグローバルサウスの双方において、この戦争が「重大な戦略的誤り」であるという認識が広がっているとされる。特に、エネルギー価格や食料価格の上昇を通じた経済的影響が、各国にとって重大な懸念となっている。
この点において、戦争の影響は当事国を超えてグローバルに波及しており、その長期化は国際政治・経済の不安定化を加速させる要因と位置づけられている。
■ 結論:勝利不能・出口なし・リスク拡大
総括としてミアシャイマーは、この戦争について以下の三点を明確に示している。
* 米国はこの戦争に勝利できない
* 現時点で実行可能な出口戦略は存在しない
* 戦争の長期化とエスカレーションは、世界経済を含む広範な破局的リスクを伴う
さらに、最も懸念される点として、「指導者の絶望」が挙げられている。歴史的事例(例:真珠湾攻撃)を引きつつ、追い詰められた国家が合理性を欠いた危険な意思決定を行う可能性があると警告している。
