Rachel Blevinsのこの対談でジョン・ミアシャイマーは、米国とイスラエルによる対イラン戦争の最大の問題は、開戦時に想定していた「短期決戦」が完全に外れ、戦争がすでに消耗戦へ移行している点にあると論じている。彼の見立てでは、トランプ大統領は、イラン指導部への斬首作戦と初期の大規模攻撃によって、イランが早期に屈服すると考えていた。しかし実際には、イランは政権崩壊も降伏もせず、18日経っても反撃を続け、しかもその反撃はイラン国内にとどまらず、湾岸諸国、イスラエル、米軍基地にまで広がる「水平的エスカレーション」を伴っている。ミアシャイマーは、こうした展開は専門家の間では十分に予見されていたものであり、予想外だったのではなく、政権側が「短く終わるから問題にならない」と高を括っていたにすぎないと指摘する。
その中で最も重視されているのが、ホルムズ海峡をめぐる問題である。彼は、ホルムズ海峡が世界の石油流通の2〜2.5割を担うだけでなく、肥料やアルミニウムの輸送にも極めて重要であり、この海峡の機能不全は国際経済全体に深刻な影響を及ぼすと説明している。しかも、米国は海峡封鎖の可能性について事前に警告を受けていたにもかかわらず、それを軽視した。現在、海峡は完全閉鎖には至っていないものの、自由航行は損なわれており、トランプ政権が各国に艦船派遣を要請している事実そのものが、米海軍ですら単独で状況を打開できない苦境を示しているというのが彼の評価である。さらに彼は、米国がロシア産石油に対する制裁を緩め、イラン産石油についても市場流入を許しているのは、供給不足による原油価格高騰を恐れているからだと見る。これは裏を返せば、米国自身がエネルギー市場の安定を維持できる立場にないことを意味している。
ミアシャイマーは、イランの強みは単にホルムズ海峡だけにあるのではなく、紅海方面でもフーシ派との連携を通じて、海上交通の別の要衝に圧力をかけられる点にあると論じる。紅海でも相当量の石油が輸送されており、もしホルムズと紅海の双方で深刻な遮断が起これば、その経済的打撃は壊滅的になり得る。彼にとって重要なのは、軍事と経済が切り離せない形で結びついていることである。イランは弾道ミサイルやドローンを用いて米軍基地や中東の経済拠点を攻撃し、米国を湾岸から押し出そうとしている。これは単なる軍事的圧迫ではなく、米国の地域的プレゼンスとドル覇権を支える安全保障構造そのものへの打撃でもある。また、ドバイのような湾岸のハブ都市も、戦争の長期化によって、これまで前提とされてきた安全と繁栄の基盤が脆弱であることを露呈したと見ている。
軍事面では、彼はイランが攻撃側として構造的優位を持っている可能性を強調する。理由は、防御ミサイルのほうが攻撃ミサイルよりはるかに高価であり、さらに1発の弾道ミサイルを確実に迎撃するには複数の防御ミサイルが必要だからである。そのため、イスラエルと米国は継続的な迎撃戦に入るほど消耗しやすく、長引けば長引くほど防御側が不利になる。彼は、昨年6月の「12日間戦争」でもイスラエルと米国が迎撃弾不足に直面したことに触れ、今回の戦争はすでにそれを超える期間に達している以上、イスラエルの防空能力は再び危険水域に入っている可能性が高いと示唆する。しかも、イスラエル国内では検閲により実態が十分に見えないが、イランはなお大量のミサイルとドローンを発射し続けており、米国側の「イランの軍事能力は壊滅した」という説明と現実との間には大きな乖離があるというのが彼の認識である。
核リスクについては、彼はやや慎重な見方を示している。少なくとも現在進行中のこの戦争の最中に、直ちに核兵器使用へ発展する可能性は高くないと考えている。ただし、本当に危険なのは戦後だという。今回のような壊滅的な攻撃を受けた後、イラン国内では「北朝鮮のようにもっと早く核兵器を持つべきだった」という議論が強まり、核武装への動機が一気に高まるだろうというのである。そしてイスラエルは、通常戦力ではイランの核開発を止められないと判断した場合、イランが実際に核兵器を保有する前に核で叩く誘惑に駆られる可能性があると警告する。イランがまだ核兵器を持っていない段階では、イスラエル側には「相手の核反撃を受けずに先制できる」という計算が成り立つからである。彼は、イスラエルがイランを実存的脅威として認識している点を踏まえ、この戦争の即時的な核化よりも、戦後の核開発競争と予防核攻撃の誘惑のほうがはるかに危険だと位置づけている。
また、この戦争は米国の本来の大戦略とも矛盾していると彼は述べる。トランプ政権の国家安全保障戦略文書を見れば、本来米国が重視すべきは東アジアと西半球であり、中東や欧州は相対的に優先順位が低いはずだった。ところが現実には、米国は日本など東アジアからTHAADやパトリオットのような戦力を引き抜き、中東へ移している。さらには、日本に展開していた海兵隊部隊まで中東へ向かっている。つまり米国は「アジアへのピボット」を進めるどころか、むしろアジアから離れて中東へ逆ピボットしているのであり、これは戦略上きわめて異常だというわけである。加えて、ウクライナ支援もその分しわ寄せを受け、ロシアにとっては有利な環境が整いつつある。彼は、ロシア産石油への制裁緩和も含めて、この戦争はロシアに経済面でも戦場でも利益をもたらしているとみている。
欧州についての彼の評価はかなり辛辣である。彼は、ウクライナ戦争でロシア産エネルギーの遮断に苦しんだ欧州が、今度は中東依存の高まりとイラン戦争による供給不安・価格高騰の二重打撃を受けていると見る。その一方で、最近の欧州諸国、とりわけドイツの反応には変化が見えると指摘する。ドイツ国防相が「これは我々の戦争ではない」と明言し、メルツ首相もNATOは防衛同盟であって介入同盟ではないと述べたことを挙げ、欧州がようやくトランプ政権に対して距離を取り始めていると評価している。彼の言い方では、欧州は「離婚の時期が来た」と悟り始めており、これまでのように米国に追随し続けるのではなく、自国利益のために米国へノーと言う方向に動きつつある。彼自身は以前から、欧州は米国を宥めるのをやめ、もっとはっきり対抗すべきだと主張してきたため、この変化を当然視しつつも歓迎している。
ロシアと中国については、この戦争は「天から降ってきたマナ」のようなものだと表現している。特にロシアは大きな受益者であり、対ウクライナ戦争に必要な米国の兵器供給が削られ、さらにロシア産石油への圧力も緩むことで、経済的にも軍事的にも優位を得る。中国にとっても、米国が中東へ資源と注意力を吸い取られることは、台湾や東アジアに対する圧力の低下を意味する。また、外交的にも、今回の戦争で米国は自らの信用を大きく毀損したと彼はみている。世界の多くの国々は米国を「理性的な覇権国」ではなく、危険で予測不能な大国とみなし始める一方で、中国は比較的落ち着いた責任ある行動主体として映る余地を得る。彼は、中国が賢ければ、この米欧関係の亀裂に乗じて欧州との関係改善を進め、さらに湾岸諸国に対しても「米国より中国のほうが責任ある大国だ」と売り込むだろうと示唆している。
最後に彼が最も重く提起しているのは、「では米国はどうやってこの戦争から抜け出すのか」という問いである。彼の基本的な説明は、国家が戦争に踏み切るのは、短期で決定的勝利が得られると信じるときであり、長期消耗戦になると予想していれば通常は踏み切らない、というものである。その例として彼は、1941年の独ソ戦を持ち出す。ドイツはソ連に対して短期勝利を見込み、冬季装備すら十分に持たずに侵攻したが、結局は消耗戦に引きずり込まれて敗北した。同じことが今の米国にも起きているというのが彼の比喩である。短期勝利を前提にしたからこそ、失敗した場合の contingency plan がなく、今になって出口が見えない。彼は、トランプに残された選択肢として「勝利を宣言して撤退する」という案が一応あり得るとしつつも、それがどこまで説得力を持ちうるかには強い懐疑を示している。結局のところ、最善策が「勝ったことにして逃げる」しか見当たらないとすれば、それ自体が米国の置かれた苦境の深さを物語っている、というのがこの対談全体の結論である。