The DuranのYouTube動画から。
ウクライナ情勢をめぐるこの回の議論は、「腐敗スキャンダル」という表のテーマの背後で進んでいる、政権崩壊と権力再編の力学を丁寧に描いています。冒頭では、ゼレンスキーの側近である大統領府長官イェルマークの辞任と、在英ウクライナ大使ズスニー名義で英テレグラフ紙に掲載された記事が取り上げられます。出演者は、この論考は本人が書いたというより、ロンドンの情報機関・三文字機関(MI6 等)が作成した政治文書だと見ており、その中身は「ウクライナの安全保障」を掲げながら、実質的には停戦と体制再構築を促すシグナルだと解釈します。記事は核やNATO軍駐留など強い言葉を使いながらも、「一度戦闘を止めて、ウクライナを再建し、再びロシアと戦うための時間を稼ぐ」というロンドン的アジェンダをにじませているとされます。
同時に、この論考には「次の指導者」としてズルージニー(前総司令官・現駐英大使)を前面に押し出す意図があると分析されます。ズルージニー、クリチコ、ポロシェンコらが一つの派閥を成し、ゼレンスキーと“劇団”側とはライバル関係にある構図が説明されます。解説者は、テレグラフ記事は「停戦と復興利権」「ゼレンスキー賞味期限切れ」「ロンドンに忠実な新しい“顔”としてのズルージニー」という三つ巴のメッセージを、西側エリートやウクライナ内部に向けて発信するものだと位置づけます。
番組は、現在の「腐敗スキャンダル」を単なる汚職摘発とは見なさず、「プロジェクト・ウクライナ全体が崩れつつある兆候」と捉えます。戦場ではウクライナ軍が各戦線で崩壊過程に入り、西側内部でも勝利が不可能であることが暗黙に認識されていると指摘します。さらに、EU が構想する1,400億ユーロ規模の対ウクライナ融資スキームが、ベルギーと決済機関ユーロクリアの強硬な抵抗にあって暗礁に乗り上げていることが詳述されます。ベルギー首相が欧州委員長宛に「この仕組みは根本的に間違っている」と警告する書簡を送り、損失補填の「連帯責任(joint and several liability)」を他の加盟国に求めており、それは実質的に「全額ドイツがかぶれ」と言っているに等しい、と解説されます。この手紙が存在する以上、域外で訴訟になれば「このスキームは違法であると当事者自身が認めている証拠」と見なされるリスクが高く、EU 全体が一枚岩で巨額資金を出し続ける前提は崩壊しつつあると評されます。
こうした軍事的敗勢と資金面の行き詰まりを前に、キーウ内部では「時間のあるうちにスーツケースを満たせ」という心理が蔓延し、権力中枢へのアクセスをめぐる熾烈な争奪戦が起きていると説明します。イェルマークに対する捜索や失脚も、その一環として理解されます。アメリカがイェルマーク排除を望んでいる可能性は認めつつも、実際に調査を強く押し進めているのは主としてキーウ内部の勢力であり、欧州側はむしろ不安定化を恐れてこの捜査に消極的だという見方が示されます。ズルージニーを担ぎ出して金の流れを自分たちの側に引き寄せたい「新しいクラン」と、自らの既得権を守ろうとする現職側との権力闘争として描かれます。
一方で、ズルージニー自身の資質については極めて懐疑的な評価が示されます。彼は2023年の大反攻作戦の失敗に責任を負う総司令官であり、ロシア軍に繰り返し敗北した人物だと指摘されます。また、西側メディア自身が北溪(ノルドストリーム)破壊工作の黒幕候補として彼を挙げていたことにも触れ、軍事・政治両面で「過大評価された神話」のような存在だと論じます。ただし、極右部隊との結びつきや「ゼレンスキーではない」というイメージから、兵士や一部市民には一定の人気があることも認められます。イギリスはロンドンに駐在させているこの人物を強く推しており、ドイツはクリチコに近いなど、西側内部でも「どの傀儡を前面に出すか」を巡る綱引きがあると指摘されます。
出演者は、誰が次の“顔”になっても状況が安定することはなく、むしろ崩壊を加速すると見ています。もしゼレンスキーが押しのけられれば、「大統領すら簡単に替えられる」と国内に示すことになり、その後ズルージニーが失敗すれば「今度はクリチコだ」「次はティモシェンコだ」といった具合に、短命政権の連鎖と政治的カオスが発生すると警告します。これは危機的局面の国家でよく見られる「回転ドア現象」だとされ、結果的にグリフト(横領・中抜き)自体も中断せざるを得ない局面が来る可能性があると述べられます。
ゼレンスキーの去就についても心理と法的計算の両面から分析がなされます。彼はすでに「ナポレオン・コンプレックス」と揶揄されるような自己肥大を示しているとしつつも、本質的には「自分と家族と資産の保護」「将来の訴追リスクの最小化」を最優先していると見られています。十分な免責と保護の保証が得られない限り、自ら身を引くことはしないだろうと予測されます。さらに、どんな保証も政権交代や国際政治の変化で反故にされ得る以上、「最後の瞬間まで大統領の地位を維持し、その後海外で亡命政府を名乗る」ことが最も安全な戦略だとアレクサンダーは分析します。西側諸国が“ウクライナ正統政府”として認め続ける限り、彼には国家元首としての免責と政治的保護が付随するからです。
アメリカや欧州にとっては、ゼレンスキーを切ることには「腐敗問題を切り離し、ウクライナ支援の正当性を再構築できる」という利点があります。Molly Hemingway が「プロフィールにウクライナ旗を付けていた人は皆グリフトに関与していたのでは」と皮肉った例が紹介され、西側は「腐敗を頂点まで追及して指導者を変えた。だから民主主義は機能している。引き続き支援できる」と自国民に説明しやすくなると指摘されます。ウクライナ内部の新興派閥も、「指導者をすげ替えることで西側の財布を開かせ続けられる」と期待しているとされます。
しかし同時に、プーチンはすでに「ゼレンスキーは任期切れで不法な権力奪取者」と宣言しており、その正統性は国際舞台でも揺らいでいることが指摘されます。ここでさらに政権内部のクーデターや“ソフトな宮廷革命”が起これば、ウクライナ国内の統治正当性は決定的に崩れ、政治的カオスと国家崩壊が一気に進行しかねないという強い懸念が示されます。反体制メディア「Strana」も同様の警告を発していると紹介され、ウクライナ内部と西側の一部は「ゼレンスキーは残さざるを得ない」と認識している可能性があると論じます。そのため、現実的なシナリオとしては、ゼレンスキーを形式的に残しつつ、ズルージニーを首相・副大統領・安全保障会議議長などのポストに就ける「二重権力」的な折衷案が模索されているのではないかと推測されます。
番組の終わりでは、「新年までにゼレンスキーが自発的に退陣する」というキーウの一部アナリストの見方も紹介されます。これはエリツィンが1999年末に突然辞任した前例を意識している可能性があるとされますが、現時点ではゼレンスキー本人がその兆候をまったく見せていないことも指摘されます。また、ゼレンスキーがトランプとの会談を強く望んでいることにも触れられ、それがまさに「自らの将来の保障・免責」を交渉する試みなのではないかという推測も出されます。全体として、解説陣は「ウクライナの政治危機は、誰が表の指導者になっても本質的には収まらず、軍事的敗勢と資金枯渇、内部腐敗と外部介入が絡み合った構造的崩壊過程に入っている」との見方で一致して締めくくっています。
