Glenn Diesen教授の番組にメアシャイマー教授が登場。
この対談でメアシャイマーは、欧州の将来が「地政学的に極めて暗い」と考える理由を、ほぼ一貫して米国・ロシア・欧州・ウクライナの三角(+米国)関係から説明しています。出発点は、「戦後から今日に至るまで、欧州の安定は米軍の大規模駐留と、NATOという米主導同盟に決定的に依存してきた」という認識です。米国は欧州内部の対立を抑え、各国の集団行動問題を解決する「パシファイア(調停者)」として機能してきた。冷戦後のNATO拡大も、東欧を含む「欧州全体にアメリカの安全保障の傘を広げ、一つの平和ゾーンにする」戦略だった。したがって、欧州の側から見れば「アメリカを欧州に深く関与させ続けること」が安全保障の大前提だったと彼は強調します。
しかし現在、その前提を根底から揺るがす二つの力が働いているとメアシャイマーは言います。第一は、国際システムの権力分布の変化――単極から多極への移行です。1990年代から2010年代前半までは米国一強の単極体制であり、米国は余裕をもって欧州に大規模戦力を駐留させていられた。ところが、中国の台頭により米国は「真の同等ライバル」を東アジアに持つようになり、構造的に「アジアへのピボット」を迫られている。米国にとってロシアはもはや同格の大国ではなく、真の競争相手は中国である以上、「貴重な軍事資源を欧州ではなく東アジアに振り向ける」圧力が強まるのは必然だ、と彼は分析します。
第二の力がウクライナ戦争です。本来、米国を欧州にとどめるには、米欧が外交・軍事・経済などあらゆる面で緊密な協力関係を維持する必要がありましたが、ウクライナ戦争をめぐる処理を巡って米欧の間には深刻な対立が生じている。トランプ政権は戦争を終わらせて対露妥協を図り、中国への対抗に集中したいのに対し、欧州側はロシアへの譲歩に強く抵抗している。トランプ案(28項目和平案)と欧州側の対案(28項目)を比べると、ロシアへの扱いをめぐってほぼ完全に対立していることが分かる。こうした対立はトランプ側の苛立ちを増幅し、「欧州から手を引きたい」という感情的なインセンティブすら生んでおり、米欧関係は今後さらに悪化しかねないと警告します。
メアシャイマーは、現在浮上している三つの和平案――①トランプ政権の28項目案、②それに対する欧州の28項目対案、③米国とウクライナがまとめた19項目案――を精査した結果、いずれもロシアにとって受け入れ可能な枠内には入っていないと主張します。トランプ案は西側では「ロシアへの過度な譲歩」と批判されているが、実際には①ウクライナ軍上限60万人、②ドンバスについては法的承認(de jure)ではなく事実上の支配(de facto)のみ、しかもウクライナ撤退地域はロシア領ではなく非武装地帯、③NATO加盟拒否の一方で米国による事実上の強力な安全保障保証――といった点で、ロシア側の最低条件から見れば「包括的に受け入れ不可能」だと彼は言います。欧州案はさらに過激で、ウクライナ軍80万人上限、安全保障保証、賠償、領土譲歩なしなど、敗戦国ロシアの「全面降伏」を事実上求める内容であり、交渉の土台にすらなり得ないと批判します。最新の19項目案も、最重要争点(領土・NATO・安全保障保証)を先送りしつつウクライナ軍上限をさらに引き上げる方向であり、ロシア受け入れの可能性は一層低いと見ています。
こうした分析の根底には、「この戦争はロシアにとって存在的(エグジステンシャル)脅威である」という認識が西側に欠如している、という彼の問題意識があります。西側の物語では、ロシアは帝国主義的野心から領土拡張を試みているとされるが、ロシア側の論理は全く違う。ロシアは、NATO・EU・リベラル民主主義陣営へのウクライナ完全統合を、「ロシア国境に築かれた西側の砦」であり、自国の生存を脅かす存在的脅威と見ている、とメアシャイマーは説明します。要求が戦争開始以来一貫して変わっていないこと――ウクライナのNATO非加盟、意味ある安全保障保証の否定、4州+クリミアの法的承認、ウクライナの大幅軍縮――は、彼らにとってこれが妥協し得ない生存の問題であることを示している、というのが彼の見立てです。
他方で、ウクライナにとってもロシアの要求は存在的脅威であり、4州+クリミアの永続喪失、大幅軍縮、NATO否定を受け入れれば、国家の将来が危うくなると感じるのは理解できるとメアシャイマーは認めます。つまり、ロシアとウクライナは互いを存在的脅威とみなし、西側――特に欧州――はウクライナを全面的に支援して後押ししている。ここには「どちらも一歩も引けない構造」ができあがっている。さらに西側は、2022年4月イスタンブールで和平に近づいたにもかかわらず、「ロシアを打ち負かせる」と過信してウクライナに交渉離脱を促し、その後戦争は軍事規模・質、目的の両面で大きくエスカレートしたと彼は振り返ります。このプロセスを経てロシアの要求水準も上がり、「ウクライナを機能不全のルンプ国家に近い形にまで弱体化させる」ことまで視野に入れるようになったと述べます。
メアシャイマーは、こうした経緯を踏まえ、「もはや第一次世界大戦後期に近い状況にある」と喩えます。第一次大戦が交渉による妥協ではなく、塹壕戦の果てのドイツ敗北で終わったように、この戦争も通常の外交交渉でソフトランディングする可能性は極めて低く、ロシアの戦場勝利(あるいはそれに近い形)と、ウクライナ側の事実上の敗北という形でしか終わらないのではないか――これが彼の見立てです。そしてその後に残るのは、「凍結紛争」と、ロシア vs ウクライナ+欧州+米国の間に横たわる毒々しい政治関係、さらに北極・バルト・ベラルーシ・モルドバ・黒海といった多数のフラッシュポイントだ、と彼は強調します。
そのうえでメアシャイマーは、「欧州の未来がなぜこれほど暗いのか」を改めて整理します。第一に、戦後欧州の安定を担ってきた「アメリカのパシファイア」が、多極化とウクライナ戦争を契機に縮小・消滅する方向にある。米軍プレゼンスが大幅に減れば、欧州は「主権国家の寄せ集め」という本来の姿を露わにし、各国がそれぞれの安全保障観にもとづいて勝手に動き出す。欧州委員会やブリュッセルの官僚が描く「一枚岩の欧州」は幻想であり、集団行動の問題が再び噴き出すだろうと彼は予測します。第二に、ロシアは今後長期にわたり欧州に政治・外交・経済的な妨害を加える強い動機を持ち、欧州側も同様にロシアへ嫌がらせを続けるため、相互に「不和の種」を撒き合う関係から抜け出せないと見ています。
理論上の「ベストケース」として、メアシャイマーは「欧州がウクライナ問題に対する考え方を根本的に改め、ロシアと実質的ディールを結び、米国とも協調しつつ数十年かけて関係改善に努める」道筋を挙げます。しかし現状を見る限り、その方向に向かう兆候は全くなく、むしろ逆方向――ロシアとの対立の先鋭化、米欧関係の悪化、ウクライナ戦争の引き延ばし――が進行していると悲観的に評価します。欧州諸国は、最も損失が大きい立場にあるにもかかわらず、NATOと自らの面子を守るために「勝ち目の薄い戦争をなお続けようとしている」。敗北すればNATOと欧州の威信の大打撃になり、米国パシファイアの崩壊=欧州の安全保障空白につながるという恐怖が、彼らを引き返せないところまで追い込んでいる、というのが彼の見立てです。
最後にメアシャイマーは、すべての起点に2008年4月の「ウクライナとジョージアのNATO加盟方針」決定を置きます。この決定はロシアを長期的に追い詰める地雷となり、その後も西側はイスタンブール和平の拒否など、一貫して最悪の選択を積み重ねてきたと総括します。彼自身、「自分の悲観的分析が間違いであってほしい」と言いながらも、長年の研究と議論を踏まえると「欧州の地政学的未来は非常に暗い」という評価は残念ながら妥当だと考えざるを得ない、と締めくくります。
