この番組は、トランプの「ウクライナは腐敗したメスであり、自分が大統領なら戦争は起きなかった」「ウクライナはNATOに入らず、戦争は終わる」という発言を軸に、いわゆる「トランプ28項目和平案」とその欧州版カウンター案をめぐって、複数の立場から激しく議論する構成になっています。
前半はジェフリー・サックス教授との1対1のインタビューで、後半はビル・ブラウダー、ウェスリー・クラーク元NATO欧州連合軍最高司令官、ロシア側コメンテーターのヘンリー・シタリアン、人権弁護士ロバート・アムステルダム、そして最後に元ウクライナ首相ヤツェニュクのインタビューという流れで、「和平は近いのか」「この和平案は受け入れ可能なのか」「ウクライナとロシア、どちらがより腐敗しているのか」「西側はどこまで犠牲を払う覚悟があるのか」がテーマとして浮き彫りになります。
サックス教授は、28項目案と欧州の修正案を比較したうえで、「本質的にはどちらも同じ方向を向いており、戦争は近いうちに終わるだろう」と分析します。彼のポイントは明確で、①ウクライナはNATOに加盟しない、②ロシアが実効支配する一部の領土は“事実上”ロシアの支配として扱われるが、ウクライナはそれを正式に承認しない、③その形で戦闘が停止する、という枠組みです。和平の仕組みとしては、どちらかが合意違反を犯した場合には、その側が受けていた安全保障や制裁緩和などの「保証」が即座に失効する相互保証システムを想定しており、「双方が疲弊し、完全な正義ではなく“そこそこ受け入れられる妥協”で終わらせる」という、現実主義的な和平観を示します。
同時にサックスは、この戦争を「2022年に突然始まったもの」とは見なさず、「少なくとも2014年のマイダン政変とドンバス武力衝突から続く連続的な戦争」と捉えます。彼は、米国が支援したとされる2014年の政変、東部で約1万4千人が死亡した内戦、そして30年にわたるNATO拡大と対ロシア圧力を、一連の背景として強調します。そのうえで、2022年のロシアの侵攻自体は“違法”と認めつつも、欧米が自らの違法行為や戦争犯罪(イラク戦争、他国政権転覆、ガザでのジェノサイドへの関与等)を反省せず、ロシアだけを一方的に断罪する「道徳的二重基準」を強く批判します。「もし全ての国が自らの戦争犯罪を裁かれるなら世界は良くなるが、現実は常に“相手の目の中の塵”だけを責めて自分の“梁”を無視している」と、欧米世論に対する厳しい視線を示します。
サックスはまた、戦場の現状について「ロシアは地上でほぼ自らの戦略目標を達成しており、ウクライナ軍は消耗し尽くし、欧州の指導者は国内支持もなく、米国もNATO拡大という“原則のための戦争”を続ける意思はない」と指摘します。ウクライナのゼレンスキー政権も、戒厳令下で腐敗スキャンダルに揺れており、国民は疲弊しているとし、「ウクライナNATO非加盟+集団安全保障枠組み」という大枠で、戦闘終結が現実味を増しているとの見方を示しました。ただ、その直後にロシアが「欧州修正版は非建設的で受け入れられない」と表明したというニュースが入り、司会は「和平機運が一気に冷え込む可能性」を投げかけます。
後半のパネルでは、完全に構図が変わり、サックスの現実主義的なシナリオに対して、ブラウダーとクラーク将軍が強硬な反ロシア・反譲歩の立場から反論し、一方でアムステルダムやロシア側コメンテーターが「ウクライナの腐敗と西側の偽善」を強く批判する形で真っ向からぶつかります。ブラウダーは、アムステルダムがかつてロシア国内で反プーチン陣営を支援する弁護士だったことを引き合いに出し、「今のロシア擁護的な姿勢は180度の変節だ」と攻撃します。彼は、ロシア体制を「1,000人のエリートが1兆ドルを盗んだ巨大な腐敗国家」と断じ、ロシア軍が占領した地域では女性への集団レイプ、男性の処刑、子どもの連れ去りが行われているとし、「ウクライナ人が戦う理由は、ロシアに占領されればそのような運命が待っているからだ」と、戦闘継続を正当化します。また、西側が凍結しているロシアの約3,000億ドルの資産を、ウクライナ防衛費に充てるべきだと主張し、「国際法上も正当な賠償金だ」と強調します。
これに対しアムステルダムは、「侵攻が国際法違反であることには全く異論はない」と前置きしつつも、焦点を「ウクライナ国内の現実」に移します。彼はウクライナ正教会の代理人としての立場から、政権による教会弾圧や、治安機関の恣意的な権力行使を批判し、「ウクライナはもはや理想化された民主主義国家ではなく、腐敗した一党支配国家に近づいている」と指摘します。また、「欧州は自国の若者や自国予算ではなく、“ウクライナの若者と凍結ロシア資産”を燃料にして、遠くから勇ましいことを言っているだけだ」と西側の“代理戦争”構造を批判します。さらに、凍結資産の没収については「裁判所の判決なしに資産を取り上げれば、国際金融秩序そのものを傷つける」と警告し、「どの国の資産であれ、法の支配を踏みにじる形で没収してはならない」と主張します。
クラーク将軍は、28項目案を「ウクライナに不可逆的な譲歩を強要し、ロシアには検証可能な義務を負わせない“外交的罠”」と評価し、最初の条件として「即時停戦」がないことを致命的欠陥とします。彼は、ウクライナの軍備上限設定や、NATO拡大凍結条項、ブダペスト覚書への言及欠如など、具体的条文を次々に問題視し、「ウクライナの主権とNATOの原則を侵す内容だ」として“完全な却下”を主張します。同時に、「プーチンは西側が疲れて諦めると計算している」とし、チャーチルの演説を引きながら、「西側が自らの価値と民主主義を守る意思があるなら、軍事支援と制裁を強化し、ロシアに“西側は持久力で勝てる”ことを証明しなければならない」と訴えます。彼の視点では、これは単にウクライナの戦争ではなく、「NATO全体の信頼性と欧州安全保障秩序の存続」がかかった長期戦です。
ロシア側コメンテーターのシタリアンは、そもそも28項目案のリークをロシア側の“作戦”とみなす西側の見方を否定し、「最初に内容を書き立てたのは西側メディアと西側当局であり、ロシアは後から正式案を受け取っただけだ」と反論します。彼は、トランプ案の重要ポイントとして、①一部領土をロシア領として承認、②その他の地域はウクライナが非軍事化のうえ“返還”、③ウクライナの永続的中立化、④NATOのこれ以上の東方拡大停止、⑤凍結ロシア資産の活用スキーム、などを挙げ、欧州案はこれらの核心をほぼすべて否定していると主張します。そのうえで、「欧州がこの案を拒否するなら、ロシアは“特別軍事作戦の継続”という既定路線に戻るだけであり、ロシア側はそれでも構わない」と、長期戦覚悟を示します。
番組終盤には、元ウクライナ首相ヤツェニュクが登場し、トランプ案および欧州修正版を「和平案ではなく“降伏案”“詐術的なプラン”」と厳しく批判します。彼は、この案の背後にロシアの影響下にある人物の関与を疑い、「ウクライナの主権と領土を段階的に奪う“這い寄る占領”を合法化するものだ」と警鐘を鳴らします。一方で、彼自身も「真の和平」を求めており、そのためには米・EU・ウクライナが同じ立場で一致し、ロシアとその背後にいる中国に対して、制裁・凍結資産・軍事支援・長距離兵器・二次制裁など、自由世界としての総合的圧力を行使する必要があると主張します。彼にとって問題なのは、“譲歩そのもの”ではなく、「ロシアの戦略を見抜かず、制裁緩和や資産利用回避など、ロシアの時間稼ぎに乗せられる形の“偽りの和平”」であり、それは長期的に西側の安全をむしろ危険に晒すと警告しています。
最終的に、この番組全体は「トランプの和平案」を巡る是非を超えて、いくつかの根源的な論点を浮かび上がらせます。第一に、「ウクライナ戦争の起点をどこに置くのか」という歴史認識の争い(2014年か2022年か)。第二に、「ロシアの侵略性と戦争犯罪の責任」を強調する立場と、「米欧自身の戦争犯罪や二重基準」を強調する立場の対立。第三に、「ウクライナをどこまで“民主主義の砦”として理想化できるのか」、逆に「どこまで腐敗と権威主義を認めたうえでなお支援を正当化できるのか」という実態認識のギャップ。第四に、「和平」を目指すと言いながらも、その中身が実際には「一方的な譲歩強要」なのか、「現実を踏まえた最小限の妥協」なのかをめぐる価値判断。そして最後に、「西側はどこまで本気でこの戦争にコミットする覚悟があるのか――自国の兵士と財政を投入するのか、それともウクライナ人と凍結資産だけを使って“代理戦争”を続けるのか」という、非常に重い問いが突きつけられています。
