ウクライナによる、欧米の長距離ミサイル兵器の使用は、第三次世界大戦への序章か?

バイデン大統領がウクライナによるロシア領土への長距離ミサイル攻撃を許可したと言う報道が1117日には出て、1119日にはウクライナがロシアのブリャンスク州にATACMSミサイルを発射した。

 
 
 
 
 

1119日のRT

Kiev fires ATACMS missiles at Russia’s Bryansk Region – MOD”

の記事によれば、モスクワの国防省が

「キエフは火曜日の早朝にATACMSと特定される長距離弾道ミサイル6発を発射した。そのうち5発はS-400とパンツィール防空システムで迎撃され、もう1発はブリャンスク州のロシア軍施設に着弾し炎上したが、すぐに処理された。」

と言うロシア国防相の声明を伝え、

「ロシア軍は、この事故による被害はなかったと主張している」

と報じた。

これまで、ロシア政府は、西側の兵器によるロシア領土への長距離攻撃はNATOとロシアの直接戦争になると述べて来た。

前述の記事でも、9月に「キエフは、NATO加盟国からの直接の情報なしにそのような攻撃を仕掛けることはできない。」

とプーチン大統領は 指摘したと報じた。

今回のバイデン大統領の長距離ミサイルに係る許可の後、プーチン大統領は、1119日に、核抑止に関する新たな国家方針を定めた大統領令に署名した。

1119日のSputnik Japan

「プーチン大統領、新たな核ドクトリン策定 使用条件を明確化」

の記事を見ると、この核ドクトリンに関しては、

「核兵器の使用条件が具体化された一方、使用はあくまでも防衛のための最終手段との方針は変わっていない。

核ドクトリンの策定もあり、今回のバイデン大統領の決定により、NATOとの緊張が格段に上がり、第三次世界大戦の開始が近づいているのではないかとの懸念も広がった。」

しかし、バイデン政権も今回の決定により、ロシア側がどのような反応をするのかは当然計算した上で、ATACMSミサイルを利用したロシア領土への攻撃な訳で、この攻撃の後もロシアが核兵器を用いた反撃には直ちに至らないだろうと判断したのだろう。

ここで、ウクライナが使用したATACMSミサイルについて少し見てみよう。

米国の1120日のSputnik Japan

「ウクライナが保有するATACMSは最大50発、戦況に影響は無し」

の記事を見ると、

「ウクライナが保有する長距離ミサイルATACMSは最大50発で、米国内の在庫も限られていることから、このミサイルが戦況に影響を与えることはない。」

と述べ、

「また、首都モスクワを射程に収める英仏のストーム・シャドウはさらに在庫が少なく、増産には数年単位で時間がかかることから、同様に影響は無い。」

1120日にウクライナがロシア領土内の攻撃に使ったストーム・シャドウについても言及して、

ATACMS1発当たり82万ドルから170万ドル(約12,700万円~26,000万円)、ストーム・シャドウは250万ドル(38,700万円)。高額な割にはどちらも極超音速には達しないため、迎撃は容易(ATACMSはマッハ3、ストーム・シャドウはマッハ0.9)。」

とロシア側に迎撃能力についても報じている。

また、AIツールもPerplexityを用いて、ウクライナ軍の保有するATACMSミサイルの数を調べてみたが、せいぜい15から20と言う回答であった。

次に、ロシアが今回のATACMSミサイルの迎撃に使った、S-400とパンツィール防空システムの概要についても簡単に触れておこう。

1120日のSputnik Japanの「ロシアはこうやって米国のATACMSを撃ち落とす」では、以下のような概要が記載されていた。

パーンツィリ(鎧)

  1. 中距離ミサイルと30mm口径連装対空砲の両方を発射できる防衛システムで、射程20km、高度15kmの標的を連続で攻撃できる。

  2. 12基の2段式固体燃料ミサイルはマッハ3.8まで加速し、マッハ2.9までの目標を破壊できる。

  3. レーダーは標的を4秒から6秒でとらえ、最大40の目標を自動追跡する。

  4. 移動中でも発射可能で、4つの目標を同時に攻撃できる。

S-400「トリウームフ」(大勝利)

  1. 中距離の対空およびミサイル防衛システム、最大600kmの探知能力を誇る。

  2. マッハ14、高度30kmまでの目標を迎撃する能力がある。

  3. 最大36の目標を同時に攻撃できる。

Sputnik Japanは、ロシア政府側のメディアでもあるので、Perplexityを更にロシア迎撃能力について調べてみると、以下のように回答はあった。

  • ATACMSとストーム・シャドウATACMSに対する防衛

  1. ATACMS: S-400 の長距離能力は、ATACMS ミサイルが目標に到達する前に迎撃するのに適している一方で、パンツィリは、防御の外層を貫通するミサイルや低高度を飛行するミサイルと交戦することで、追加の防御を提供できる。

  2. ストーム・シャドウ: 低高度を飛行し、レーダー探知を回避する能力を持つストーム シャドウは、課題となる。ただし、早期探知用の S-400の レーダー・システムとパンツィリの即応砲を組み合わせることで、飛行経路上のミサイルを標的にすることで、この脅威を軽減できる。

  • 全体として、これらのシステムを階層化された防御ネットワークに統合することで、ロシアは早期探知、長距離迎撃、近距離交戦を通じて、ATACMS とストーム シャドウの両方のミサイル脅威に効果的に対抗できる。

    1. S-400の長距離能力は、ATACMSミサイルが目標に到達する前に迎撃するのに適している。

      パンツィールは、防衛の外層を突き抜けたり、低高度を飛行しているミサイルに交戦することで、さらなる防衛を提供することができる。

      ストームシャドウ:低高度を飛行し、レーダー探知を回避する能力を持つストームシャドウは、難題を突きつけてくる。 しかし、早期発見のためのS-400のレーダーシステムとPantsirの高速応答キャノンを組み合わせることで、飛行経路中のミサイルを標的とすることで、この脅威を軽減することができる6。 全体として、これらのシステムを重層的な防衛ネットワークに統合することで、ロシアは早期発見、長距離迎撃、近距離交戦を通じて、ATACMSとストームシャドウの両方のミサイルの脅威に効果的に対抗することができる。

これまで、長距離ミサイル兵器の使用解禁については、バイデン政権は数カ月にわたって躊躇して来ただけに、今回の決定は政策の重大な転換を意味する。

この背景には、ロシアからの軍事的圧力の高まりと、特に北朝鮮軍がクルスク地方でロシア軍を支援し始めたため、ウクライナの防衛能力を強化したいという願望があったと言われている。

しかし、バイデン政権側の本当の狙いは、違うところにあったのでないだろうか。

202411月の米国大統領選挙で、トランプ前大統領が勝利したが、トランプ大統領は、ウクライナへの継続的な軍事支援に懐疑的な考えを公に表明し、紛争の早期解決を求め、援助を削減する可能性を強く示唆している。

同大統領の強い支持者でもある、マイク・ジョンソン米下院議長は1011日、もはや「ウクライナへのさらなる資金提供の意欲はない」と述べ、ドナルド・トランプ前米大統領が11月の選挙で勝利し、戦争が速やかに終結することを望んでいるとPunchbowl Newsとのインタビューで述べた。

このような状況下で、ウクライナ政府は、今後の米国の支援や軍事援助に対する懸念が高まっていたのは間違いない。

トランプ大統領のウクライナ戦争に対するスタンスは一貫している中で、バイデン大統領は、ウクライナにATACMSミサイルの使用を認めることで、トランプ新政権下で起こりうる将来の交渉や停戦において、ウクライナの交渉力を高めることができると判断したのではないかなと思料する。

更に、今回の決定はまた、米国の指導者の交代が来年120日に迫っているとはいえ、ロシアの侵略に対抗してウクライナを支援するという明確なメッセージを同盟国と敵対国の双方に送ることを期待したものと考える。

1120日のBloomberg

「ウクライナ、英国製ミサイルでロシアを初攻撃-長距離兵器の使用拡大」

の記事では、

「ウクライナ軍はロシア領内の軍事目標に対し、英国製の長距離ミサイル「ストーム・シャドー」を初めて発射した。

ロシアによる侵攻が1000日を超えて新たな局面に突入する中、ウクライナは欧米から提供された長距離兵器の使用を拡大させている。」

と報じており、ロシアとNATOとの軍事的緊張は確かに上がって来ているが、ATACMSミサイルやストーム・シャドーのミサイルの性能や攻撃の規模、ミサイルの限定された在庫、ロシアのS-400とパンツィール防空システムの防空能力を考えると、核戦争や第三次世界大戦にすぐにつながるようなリスクについては、今のところ、十分計算され、コントロールされていると見ている。

1120日のBloomberg

「ロシア、トランプ氏とウクライナ停戦協議の用意表明-西側は懐疑的」

と言う記事が出て、

「ロシアはトランプ次期米大統領とウクライナでの停戦の可能性を話し合う用意があると表明した。

ただ、将来的な交渉の前に立場を強めようと、あらゆる戦線で戦闘は激化している。」

と報じ、国営タス通信によると、ペスコフ報道官は20日、「プーチン大統領は“一度だけではなく、より正確には常に、接触や交渉の用意はあると述べてきた”と発言した。“」と伝えている。

トランプ次期政権のウクライナ戦争を終えると言う強いスタンスには変化がないことから、今後の停戦に向けた交渉を少しでも有利な方向に傾けようとする、NATO側の意図が今回のロシア領土内の攻撃の為に、欧米の長距離ミサイルの使用許可をウクライに与えたことに繋がっていると推察され、この攻撃によって抜本的なゲーム・チェンジを狙ったものではないことは明らかだ。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

上部へスクロール