不動産投資のチャレンジが続く_その2

前回は8月中旬に

「不動産投資のチャレンジが続く_その1」

をお伝えしたままになっていたので、今回は、前回の終わりに予告したように、

「不動産市況の悪化が不動産投資を積極的に推進して来た海外の大手年金基金にどのようの動きをもたらして来たか」

をお伝えすることにしよう。

 
 
 

不動産投資は、賃貸借契約で家賃が安定的に入って来ることが期待できることから、年金基金のALMの観点からも親和性が高い資産クラスであると言え、豪州、米国、カナダ、北欧、韓国などの公的年金基金が積極的にグローバルに不動産投資を進めて来た経緯にある。

不動産投資に際しては、不動産をアセット・クラスする専業の資産運用会社あるいはプライベート・エクイティの運用会社で、不動産運用にも力を入れているところが運用する私募ファンドにLP (=Limited Partner)として参加しているケースが当初は多かったものの、カナダの州の先進的な年金基金を中心に、不動産投資の第三者に不動産運用を委託するのではなく、自らが積極的に不動産運用を行うようになって来た。

カナダでは、このような大型の公的年金の5基金で約1,700億カナダ・ドルの不動産のエクスポージャーを持っていると言われている。

例えば、カナダの代表的な州の公的年金であるOntario Teachers’ Pension Plan (OTPP)(オンタリオ州教職員年金)を例に取ると、2023年時点のOTPPの不動産投資総額は282億カナダ・ドルで、総資産2,475億カナダ・ドルの12%を占める。

(因みに、2018年の年次報告書を見ると、不動産へは総資産の15%を配分していた。)

さて、過去5年間のOTPPの不動産ポートフォリオの運用パフォーマンスを見てみると、以下のようになっている。

過去5年の不動産投資の運用パフォーマンスは、ベンチマークと言われる目標リターンを毎年下回り、絶対リターンで比較しても3年間はマイナスの運用利回りとなっており、機関投資家による世界の不動産投資の世界でも先進的であると言われた同年金基金の不動産投資ではあるが、この5年間で見ると、グローバル市場での高金利で不動産評価が下がり、金融機関からの借り入れが格段に厳しくなり、また、Covid-19の感染拡大による不動産の空室率高止まり等の影響を受けて、非常に厳しい運用環境の中で、業界平均を下回る運用成績に甘んじたと言える。

6月24日のBloombergの

“Real Estate Bets Gone Wrong Roil $1.24 Trillion Canadian Funds”

では、OTPPのCEOであるジョー・テイラーとインタビューした内容を取り上げ、

「過去35年間はうまくいっていたことが、今後5年から10年はうまくいかないかもしれない」

と述べた報じた。同記事では、

「テイラーの基金は、2000年にキャデラック・フェアビューという事業を買収して以来、不動産事業で最悪の4年間を過ごしている。 キャデラック・フェアビューは、ファンドの至宝のひとつであり、ポートフォリオで最大の企業である。 しかし昨年、テイラーはキャデラック・フェアビューから将来の不動産投資の大半の権限を取り上げ、年金基金の他の資産クラスと同じように社内に取り込んだ。」

と述べている。

また、同記事の中では、マクギル大学でカナダの年金基金について研究しているベターミエ准教授(金融学)のコメントを引用し、

「 彼の調査によれば、カナダの年金基金は巨大な不動産会社を持つため、仲介業者に頼る競合他社よりも大きな利ざやを獲得することができるが、同時にカナダの年金基金の機動性を低下させている。」

と報じ、これまでカナダの大手公的年金の不動産運用の強みである「自家運用方式」が、現在の投資環境では逆に足かせになっている状況を伝えている。

但し、OTPPのアセット・アロケーションの年次別推移を見ると、確かに、2018年度対比で比べると、不動産投資への配分は15%(275億カナダ・ドル)から2023年度は12%(282億カナダ・ドル)まで減少しているものの、同基金のアセット・クラスの分類で見ると、リアル・アセットと呼ばれる実物資産は主に不動産とインフラ資産からなるが、この5年間で確かに不動産はアセット・アロケーションが減少したものの、インフラ資産は逆に9%から16%(392億カナダ・ドル)へ増加していることは注目すべきであり、カナダの大手公的年金の実物資産への強い関心は変わっていないとも言える。

次回は、グローバルの不動産投資に大きな逆風が吹いている中で、新しいビジネスが台頭して来ていることをお伝えしたい。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

上部へスクロール