不動産投資のチャレンジが続く_その1

年金や機関投資家の資産運用の中で、伝統的な4資産からオルタナティブ投資への拡大が過去30年位の間で進み、その中でも実物資産と呼ばれる投資が大きく成長して来た。

不動産に始まり、インフラ施設や再生可能エネルギーへの投資も飛躍的に進んで来た。

特に商業用不動産への投資は、賃貸借契約によって賃料が安定的に不動産オーナーに入ることもあり、低金利や景気が安定している局面では、空室率や賃料水準の面の不安も少なく、また、多くの場合、不動産投資には金融機関からのデットの調達を併せて行うことで、エクイティ投資家は財務的レバレッジを効かすことでより高いリターンが狙えて、オルタナティブ投資の世界では幅広く支持されたアセット・クラスであったと言えよう。

更に、金利低下が進み、各国の国債の利回りが低下する中で、伝統的な4資産の内、内国債券、外国債券の運用利回りが格段に低下したことで、安定した利回りが確保できる不動産への投資が、こうした債券投資の代替になっていったことも、不動産投資が世界的に拡大した背景にもあると言える。

 
 
 

しかしながら、欧米でインフレーション対策から中央銀行が金利引き締め政策を取り始めて、国債金利が上昇して来た中で、これまで不動産市況を支えて来た「低金利」が無くなり、また、Covid-19の世界的な感染拡大で大きく進んだ在宅勤務の影響で、感染の収束後も、オフィス勤務が感染以前のレベルに戻らず、むしろ、在宅勤務のメリットを経営者も従業員も享受・認識する中で、欧米中心にオフィスの需要に大きな変化をもたらした上に景気後退局面で企業による従業員の削減等もあり、不動産投資の強みであった、安定的な賃料収入にも大きな影響が現れて、これまで順調だった不動産投資の世界で、昨年から特に厳しい話が聞こえるようになって来た。

更に、年金や機関投資家が投資するような商業用不動産の不動産評価は、平たく言うと、収益還元法を用いて、将来キャッシュ・フローを割引率で割り引いて、現在価値を求めて試算した価格をベースに近隣の類似不動産の取引価格等も比較して鑑定評価額を算出しているが、この収益還元法では、金利が上がり、空室率が上がり、賃料見込みが減少すると、当然のことながら、鑑定評価額も下がることになる。

前述のように、多くの商業用不動産投資は、金融機関からデットを調達して行う、レバレッジド・エクイティ投資となっており、

①鑑定評価額の減少は、担保価値の減少を意味して、レンダーは運用期間終了時に融資元本が返済される蓋然性を懸念し、特に、融資実行時のデットの比率が高いものは、特にその傾向が強くなり、

②期中の賃料キャッシュ・フローが当初想定したものより低く推移すると、デットの利払いにも懸念される状況になり、

③結果として、本来であれば、投資期間満了時にデットの借り換えも容易に行えたものが、いわゆるリファイナンスが困難になり、物件価値が既に落ちた状態で、満期のデットの元本返済の為に物件を市中で売却せざるを得ないようなる。

昨年以来、大手の不動産アセット・マネジャーがこうした市場環境の中で、困難な局面にある報道も増えて来た。

8月15日付けのBloombergの

「UBS、クレディS継承の不動産ファンド閉鎖へ-オフィス物件不振で」

では、

「UBSが清算するファンドはクレディ・スイスを買収した際に継承したもので、一部の商業用不動産へのエクスポージャーが高かった。同行によれば資産規模は19億スイス・フラン(約3,200億円)で、80%以上をオフィス用不動産が占めていた。米国とドイツの資産が特に多かった」

と伝え、UBSはファンド閉鎖を決定した背景について、

「まだ残る償還請求に応じた場合、最も流動的な資産を長期的な本源的価値よりも安く売却することになる」

と15日の発表資料で説明したことが報道されている。

同記事では、今回の動きを引用し、

「スイスの銀行UBSグループは主力不動産ファンドを清算する。投資家は低迷する商業用不動産市場から資金を引き揚げており、それに伴い混乱が広がっていることが改めて示唆された。」

と概括している。

次回は、こうした市況の悪化が不動産投資を積極的に推進して来た海外の大手年金基金にどのようの動きをもたらして来たかをお伝えすることにしよう。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

上部へスクロール