07/19のBloombergの“Euroclear to Send €1.6 Billion in Russia Assets Profits for Kyiv”の報道受けて

掲題の報道によると、「ブリュッセルを拠点とする預金・決済機関ユーロクリアは、凍結されたロシアの資金から発生する利息を没収し、ウクライナに送金することを確認した。

2024年7月、ユーロクリアは、偶発的利潤に関する最近のEU規制の実施を受けて、ウクライナのための欧州基金に15億5,000万ユーロの最初の支払いを行う。」と、ユーロクリアが金曜日の声明で述べたとされる。

これは、ウクライナ関連の制裁措置の一環として凍結されたロシアの中央銀行に属する数十億ドルの使い道について、EUとG7諸国の間で数カ月に及ぶ審議が行われたことを受けたものである。

ここで、ユーロクリアが送金の拠り所にした、「偶発的利潤に関する最近のEU規制」とは何であろうか。以下2つの規制を説明したい。

先ず最初に、2024年5月22日に、EUはRegulation(EU)2024/1469を承認し、この規則はウクライに支援の目的で、ロシア中央銀銀行の凍結した資産から発生する純収益を使用することを可能にするものである。

この規則は、最初にロシア制裁を実施することを可能にしたRegulation(EU)No. 833/2014を修正したものである。

ロシア中銀の外貨準備高で西側が経済制裁の一環で凍結している資産は、約3,000億ドルあると言われていますが、この内、ユーロクリアで保管されている分が約2,000億ドル相当あるとされています。

日本もG7の1つとしてロシアに対して経済制裁を課しているが、その規模については、2022年2月28日の日経新聞の「日銀、ロシアの外貨準備を凍結 21年時点で4~5兆円」で、見出しにある通り、日本が凍結しているロシアの資産は主にロシア中央銀行の外貨準備であり、その規模は4兆~5兆円に達することが分かる。

次の規則は、最初の規則を補完するものであるが、Council Decision (CFSP)2024/1470と呼ばれ、凍結した資産から発生した純収益の使用に係る特定の目的を示したもので、Euro1,000,000以上を保管する、証券集中保管機構(CSD)は、資産から発生した利益を分別管理して、ウクライナ支援のためのEUの予算にこれを拠出するよう定めている。

これらの規則によれば、前述の純収益の90%は、ウクライナへの軍事支援の為のEuropean Peace Facilityに、残りの10%はウクライナの復興と軍事産業を支援する他のEUのプログラムを手助けする目的に割り当てられることになっている。

金融に携わる専門家の多くは、ユーロクリアのようなCSDが保管する有価証券から発生するインカム収入(受取利子や配当)は、当然のことながら、このCSDの口座の実質的な支配者に帰属すると考えるのが普通で、

にも拘わらず、ロシア中央銀行の場合、CSDであるユーロクリアが同中央銀行の承諾なしに、インカム収入を前述の規則に沿ってウクライナ支援の為に使用することが出来るのは、どういう法的なロジックを用いているのであろうか。

これを更に調査してみると、以下のような、一見、合理的に見えるような理屈を持ち出していたことが判明した。

  • ロシアがウクライに侵攻した結果、EUが経済制裁をロシア中央銀行に課しているので、制裁を受けている機関がユーロクリアのようなCSDに保管している資産については、

    ①原資産は、凍結はしているものの、依然として所有権は実質的支配者のロシア中央銀行に帰属するが、

    ②凍結した資産から発生するインカム収入については、ユーロクリアに所有権が帰属する。

  • 凍結した資産を没収すれば、ロシア中央銀行からの反発が大きいので、インカム収入にフォーカスして、ウクライナ支援にこれを充当することにする。

ロシアからすれば、原資産とそれから発生するインカム収入の区別は、全く意味がなく、インカム収入をユーロクリアがウクライナ支援に充当することは、凍結したロシアの資産の没収と同じであると言うスタンスであり、今回の決定には大きく反発している。

ロシアは既にロシア国内の裁判所では、ロシアの機関投資家等がEUの経済制裁によってユーロクリアに保管されている資産が凍結されており、この返還を求める訴訟が100件以上、ユーロクリアに対して行われているとされている。

また、ロシア政府は更にロシアの資産の凍結・没収に対抗する措置として、ロシアにある西側の民間資産をロシア政府が没収することを認める法整備を準備中であると言われている。

具体的には、2024年5月23日に、プーチン大統領は、米国がロシアの資産を没収した場合、ロシア国内にある米国の財産を差し押さえることを認める大統領令(Decree #442)に署名しており、この大統領令は、ロシア国内にある米国政府、法人、個人の預金、有価証券、不動産など、幅広い資産を対象としている。

これにより、 ロシア側の資産保有者が、米国の没収で損害を受けたとロシアの裁判所に訴え、被害が確定すれば差し押さえて補償できる仕組みが整えられ、 ロシア政府には4カ月以内に関連法を整備するとされている。

また、

The Government Commission for Monitoring of Foreign Investments in the Russian Federation(外国投資監視政府委員会)

は、補償の対象になる資産の特定化を進めて、裁判所にそのリストを送ることになっている。

それでは上記の大統領令(Decree #442)が今回のユーロクリヤーの件に適応される可能性はあるのだろうか。

専門家の見方によれば、これは十分あり得るとする一方で、同大統領令は米国によるロシア資産の没収を明示的に対象していることから、類似の大統領令を署名する可能性も指摘されている。

いずれにせよ、これらの法的措置は、資産の凍結とウクライナを支援するために生成された利益の潜在的な使用に挑戦するロシアの多面的なアプローチを反映していると言える。

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