ウクライナとアメリカが新たに署名した、10年間の安全保障協定とは何なのか?

6月13日、バイデン大統領とウクライナのゼレンスキー大統領は、両国の緊密なパートナーシップを反映した歴史的な米・ウクライナ二国間安全保障協定に署名しました。

6月14日のabc Newsは” Biden, Zelenskyy sign new 10-year security agreement”と言う記事をアップしました。この記事では、以下のような主旨でこの二国間安全保障協定を報道しています。

ウクライナに対する新たな主要なアメリカのコミットメントとして、ジョー・バイデン大統領は10年間の二国間安全保障協定に署名し、500億ドルの融資を提供することを発表した。

バイデンはイタリアでウクライナのゼレンスキー大統領との記者会見で、G7による集団的な努力がロシアのプーチン大統領を混乱させ、分断することができると述べた。

バイデンは、アメリカがウクライナで戦うことはないが、彼らに武器を提供する立場を再確認した。

ウクライナのゼレンスキー大統領は、この協定を「ウクライナとアメリカの間での最も強力な協定」と呼び、これが持続可能な平和のためのステップであり、両国がどのように強くなっていくかについての合意であると述べた。

バイデンは、ウクライナに対するアメリカの支援を約束し、ウクライナが必要なものを手に入れると語った。 

では、もう少し、この二国間安全保障協定の中身を見てみましょう。

6月13日にWhite Houseが発表した、“FACT SHEET: U.S.-Ukraine Bilateral Security Agreement”では、この協定を以下の要領で説明しています。

米国とウクライナはこの10年協定により協力し、以下のことを行うことになっている。

  • まず、ウクライナの信頼できる防衛力と抑止力の構築・維持を目指す。安全保障と防衛協力を深め、ウクライナの安全保障パートナーと連携することで、ウクライナの将来的な戦力を強化する。

  • また、ウクライナの防衛産業基盤を強化し、経済回復とエネルギー安全保障を支援することで、ウクライナの長期的な戦闘維持能力を向上させる。

  • さらに、ウクライナの民主的、経済的、安全保障制度の改革を進め、EUへの加盟とNATOの改革プログラムに沿って、ウクライナのユーロ・大西洋統合を加速させる。

  • また、国際法上のウクライナの権利を尊重し、ロシアの行動に対して説明責任を求め、公正な平和を実現することが重要であり、将来、ロシアによるウクライナへの武力攻撃が発生した場合には最高レベルで協議し、ウクライナを支援し、ロシアに対して適切な措置を検討する。

これまでの、バイデン政権の外交スタンスや施策をこの協定で再確認する一方で、

①米国とウクライナは、将来ウクライナに対する武力攻撃や脅威が発生した場合、可能であれば24時間以内に直ちに最高レベルで協議し、適切な防衛・抑止対応を決定する、

②この協定は、強力で持続可能かつ強靭なウクライナの将来的な戦力に関するビジョンを概説するものであり、米国は長期にわたってウクライナの防衛上の必要性を全面的に支援する、

③米国は、安全保障協力の深化、情報共有の強化、NATO基準との相互運用性の向上、ウクライナの防衛産業基盤整備への協力を約束する、

④米国は、ウクライナの経済回復、エネルギー安全保障、EU加盟とNATO加盟の目標に沿った国内改革を支援することを約束する、

と言った点は新しいコミットメントと言えます。

しかし、より重要なポイントは、この協定がウクライナのために米国に直接的な軍事介入を義務付けていないことであり、NATOの第5条で規程する、「加盟国が1国でも攻撃を受けた場合、これを加盟国全体への攻撃とみなして反撃などの対応をとる」旨の集団的自衛権の行使に似たスキームは盛り込まれていないと言うことです。

今回の2国間協定では、その代わりに、さまざまな形での支援や調整を通じて、ウクライナの防衛能力を支援することに重点が置かれています。

しかし、何故、この2国間協定の有効期間が10年間と言う長期に亘っているのでしょうか?

勿論、米国の長期コミットメントは、ウクライナを安心させ、米国の支援がすぐに衰えないことを示すことで、将来の侵略を抑止することを意図しているものと推察されます。

一方で、10年という長期間は、米国の将来の外交的スタンスの変化にかかわらず、支援の継続性を確保しようと設計されていると思量します。

もっとも、例えばトランプ大統領が政権に復帰して、ウクライナ支援の縮小や撤回を決定した場合、その有効性が問われる場面も十分想定は出来ますが、この2国間協定には協議と調整の規定が含まれているものの、米国を特定の行動で法的に拘束するものではないため、トランプ大統領の外交方針に基づいて柔軟に対応することができるものと理解しています。

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