ロシア中銀の凍結資産のインカム収入を担保にしたG7によるウクライナ向け融資は実現するか?

バイデン米大統領は、欧米の金融機関に凍結されたロシア資産の利子をウクライナの戦費に充てることで、最大500億ドルを融資する可能性のある計画について、世界で最も豊かな7カ国の首脳を説得することを狙っているとされています。

これについては、6月7日のVoice of Americaの“Biden looks to persuade G7 leaders to endorse $50B loan for Ukraine using interest from Russian assets”という記事の中でも、以下のような主旨で取り上げています。

バイデン米大統領は、ウクライナの戦費に資金を提供するため、約500億ドルを融資する計画をG7サミットで提案しようとしている。

この計画では、ロシアの凍結資産の利子を利用することが検討されており、具体的な詳細が詰められる前にG7のパートナーの承認を必要としている。

現在、約2,800億ドルのロシア資産の大部分はヨーロッパにあり、バイデン政権は欧米の同盟国と協力して融資を行い、利子収入で返済することを計画している。

しかし、計画の詳細や法的・規制的な要件については未確定であり、ロシアの報復や国際法の懸念もある。

バイデンはG7首脳会議でこの計画を提示し、ウクライナへの支援を確保する意向を示している。

Voice of Americaの記事では、「G7首脳会議で合意できれば、早ければ数ヶ月以内に融資が実行される。」と述べられていますが、果たしてどうでしょうか。

外貨準備の差し押さえと担保しての利用は、経済的にも法的にもほとんど前例がなく、重大な法的チャレンジをもたらすと思量します。

多くの政府関係者や法律の専門家は、資産の差し押さえは従来の国際法上の理解、特に一般的に国家資産を差し押さえから守る主権免責の原則と矛盾すると主張しています。

例えば、欧州中央銀行のクリスティーヌ・ラガルド総裁も、「資産の凍結から没収への移行は国際秩序を損ないかねない」と警告しています。

また、ロシアは国内裁判所と海外の裁判所の両方で差し押さえに異議を唱える可能性が高いと考えます。

法的な論点は、主権免責の侵害と、国際法上そのような行為の前例がないことに集中すると考えると、長期にわたる法廷闘争に巻き込まれる可能性があるのではないかと思います。

ロシア中銀の外貨準備高で西側が経済制裁の一環で凍結している資産は、約3,000億ドルあると言われていますが、この内、ユーロクリアで保管されている分が約2,000億ドル相当あるとされています。

標題にあるようなウクライナ向け融資を実行することが、金融市場の安心・安全に対してもたらすネガティブな影響については、ユーロクリアー自身も重大な懸念があるとしています。

加えて、ロシアは西側による資産没収等が起こった際の報復措置についても具体的に言及し、国内法の整備も進めていることから、金融市場やユーロクリヤーのような資産の保有・管理に関わる機関の運営を不安定化させる可能性が高いのではないでしょうか。

私見ではありますが、ロシア・ウクライナ戦争では、それぞれがレッド・ラインを設定して、相手を牽制していますが、仮にロシアの外貨準備の将来のインカム収入を担保にするような方法であっても、これはロシアから見れば、凍結された資産の没収となる訳で、当然、標題にあるようなスキームの下でのウクライナ向け融資の実行は、ロシアの立場から見るとレッド・ラインを超えることになるのかなと思います。

さて、G7諸国も、当然のことながら、ロシアが国内裁判所と海外の裁判所の両方で差し押さえに異議を唱えることは想定済みとなると、ウクライナ向きの融資の実行を強硬することは可能だとしても、その後のロシアによる法定闘争や宣言済みの報復措置を考慮すると、本当に標題のウクライナ融資を実行できるのかなとも思います。

とすると、万が一にも融資を実行すれば、アップフロントではウクライナに資金が送られ、ウクライナの当面の資金繰りには寄与するものの、G7への融資の元利返済はないまま当該ローンはデフォルトする可能性が高いのではないでしょうか(ゼロ・クーポン・ローンにして、期中の利払いを無くして、デフォルトの認定を遅らせることは可能かもしれないですが)。

あるいは、融資の実行は最初から難しいことは承知な訳で、G7による、ウクライナ向けの金融支援がコミットされていることをウクライナに示すことにより、ウクライナが引き続きロシアに対してファイティング・ポーズを取ることを促し、ロシアとの戦争が少なくとも米国の大統領選挙より前に終わらないようにすることを期待しているのかもしれません。

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