米国下院議長は、何故、ウクライナへの資金援助案の可決に動いたのか?

皆様のご承知の通り、米国の下院は、5月9日に共和党のマージョリー・テイラー・グリーン議員が、同じ共和党のマイク・ジョンソン下院議長を解任しようとした動きを、圧倒的多数で否決しました。

異例なことですが、民主党は共和党と共同で359対43でジョンソン下院議長を続投させ、下院のさらなる混乱を食い止めることに成功しました。

マージョリー・テイラー議員は、本年3月に承認された政府支出案や先月署名されたウクライナ、イスラエル等への対外援助案など、超党派の幅広い支持を集める法案を推進するジョンソン下院議長を一貫して攻撃して来ました。

今回は、彼女はジョンソン下院議長の解任を求めると同時に、同議長が共和党の原則を捨て、ウクライナへの資金援助など民主党の優先事項を優先していると非難していました。

ウクライナ戦争の現状を鑑みると、ウクライナがNATOや日本から資金援助を受けて、ロシアとの代理戦争を行っている構図の中で、戦況はロシア有利に運び、5月3日のRTの報道では、戦争開始以降、ウクライナ軍の戦死者が50万人以上、2024年に入って約11万人が戦死しており、西側が資金・軍事支援を行って戦争が継続すれば、ウクライナの戦死者数が更に増えることが見込まれます。

更に、米国から見ればウクライナは遠い欧州の小国に過ぎず、米国との直接的な利害関係が乏しい中で、何故、ロシアとの“国境問題”に介入する必要があるのかと言う根源的な問題に解を見つけることは難しく、むしろ米国の国境問題としては、メキシコとの国境問題の方が圧倒的に優先課題であった訳で、ジョンソン下院議長も当初はウクライナへの資金支援を実行する前にメキシコの国境問題と移民政策に真摯に対峙すべきと主張していました。

にも拘らず、何故、一転してウクライナへの軍備・資金支援に舵を切ったのでしょうか。私自身もこの疑問に対する答えが見つからず、下院議長のコメントを読んでも納得感はありませんでした。

そんな折に、前述の通り、マージョリー・テイラー議員が、同じ共和党のマイク・ジョンソン下院議長を解任しようとした動きがあり、5月9日にトランプ大統領がTruth Socialで以下のように投稿しています。

「私はマージョリー・テイラー・グリーンが大好きだ。

彼女にはスピリットがあり、ファイトがあり、これからもずっと私たちの味方でいてくれると信じている。

しかし今、共和党は急進左派の民主党と、彼らが私たちの国に与えたあらゆるダメージと戦わなければならない。

現在、共和党が過半数に一人多い状況で、まもなく過半数に3人、4人多い状況になって行くが、今は、私たちは解任動議を採決する立場にはありません。

いつかはそうなるかもしれないが、今はその時ではない。

私たちは大統領選の世論調査において、全国的にもスウィングステートでも大きくリードしています。

同様に、我々は上院でうまくやっているし、下院でもうまくやってくれると信じている。

しかし、もし我々が不和を示せば、それはカオスとして描かれ、すべてに悪影響を及ぼすだろう!

マイク・ジョンソンは懸命に努力している良い人だ。 私はまた、この2ヶ月の間にあることが成し遂げられることを望んでいる。

共和党員の皆さんには、”審議入り動議 “に投票していただきたい。 私たちは必ず大勝利を収める!」

この投稿から、トランプ大統領は、マージョリー・テイラー議員の存在を大変心強く思う一方で、マイク・ジョンソン下院議長の議会運営にも十分理解を示していることが分かり、下院議長がウクライナへの対外援助に舵を切った背景には、トランプ大統領の意向が強く反映しているのではないかと考えるようになりました。

5月12日に、The Sunday Timesにティム・シップマン(チーフ・ポリティカ・コメンテーター)による寄稿記事がアップされ、そこには非常に興味深いことが書いてありました。

アメリカ政府関係者によれば、「ウクライナの補給線が枯渇しているという情報報告書を見せられ、トランプ大統領は(ウクライへの620億ドルの追加予算について)説得された」と述べてます。

しかし、このような説得でこれまでウクライへの支援に否定的だったトランプ大統領が方針を転換するでしょうか。

実は、外務大臣のデイビッド・キャメロン氏がトランプ大統領とフロリダで懇談が大きな役割を果たした可能性があります。

記事の中では、「イギリス政府関係者も、キャメロン氏がトランプ大統領のフロリダの自宅であるマー・ア・ラゴを訪問したことで、トランプ大統領がこの問題を別の角度から見るようになったと評価している。

キャメロン氏の最初のアプローチは、共和党議員にヨーロッパ防衛を支援する義務があると説教するというもので、評判は最悪だった。

しかし、ホワイトホール関係者によれば、外務大臣がトランプ大統領と話をした際、彼は方針を変え、トランプが再び大統領になった場合、何が最善であるかについて議論を展開したという。」と述べ、その内容については、

「トランプ大統領にとって最善なのは、基本的には、ウクライナ人が前線を維持できるようになることだろう。

そのためには、武器のための資金がもっと必要だ。トランプが1月に勝利するとしたら、ウクライナ軍が崩壊したためにプーチンがキエフに進軍することを望むだろうか?

それとも、ウクライナ人を戦いに参加させ続け、1月にトランプが勝利した場合、膠着状態を引き継ぐことになるのだろうか?」

と関係者のコメントを引用しています。

そして、キャメロン氏のシンプルなメッセージを「トランプ氏が大統領として来年1月に“ディール”をする最良の条件は何か?それは、双方が一線を守り、その代償を払うことだ。」と説明し、トランプ大統領は「誰もこのような条件を提示してはいない。そして、私たちが会話をしたことをうれしく思う。」と答えたと述べています。

要約すれば、キャメロン氏は、トランプ大統領が1月にホワイトハウスに戻った場合、ロシアとの取引を成立させるのに十分な時間、キエフの前線を安定させる手助けをする方法として、長い間議会で審議中だったウクライナの資金援助法案を提示したということになるのかなと思います。

この記事では、舞台裏での会話に詳しいイギリスの情報筋の話として、

「トランプ大統領が、自分はこの戦争を終結させた外交的・軍事的天才だと言えるような状況を提示することには、意味があると我々は考えている。それは彼にとって大きなエゴであり、彼はそう言いたがっている。」

と述べており、この4年間の苦難の待機期間の後の政権復帰の際には、非常にインパクトのあるものにしたいと考えているトランプ大統領の気持ちも鑑みると、The Sunday Timesの投稿記事は十分説得力があるのかなと見ています。

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